当×征小説

□34歳 初夏
1ページ/5ページ

当麻はかなり焦っていた。


征士と連絡が取れないのだ。
携帯にかけてもメールをしても、出ないし返事もない。


ならば、と自宅の方に電話をしても出てくれない。どうやら、取り次がないように言ってあるようだ。


「くっそー何なんだ、征士のヤツ」


今までは、こんなことはなかった。
電話はともかく、メールには征士は必ず返事をくれた。

仕事が休みの時にでも、直接仙台まで行くか……とも思ったが、門前払いをくうだけな気がする。
どうせ行くなら、確実に会えないと意味がない。

当麻は頭を抱えた。


(IQ 250なんて、大して役に立たないよなぁι)


焦りとイライラばかりが募って、考えが纏まらない。


「〜〜〜〜〜〜っιやっぱり、アイツに相談するしかないか?ι」


何言われるか、判らないけどι

からかわれて遊ばれるのは、目に見えてるけどι

でも、結局頼ってしまう相手。


当麻は、携帯の伸の番号を呼び出した―――


翌日の金曜の夜。
伸が、当麻の家までやって来た。


当麻は電話で話そうと思ったのだが、長くなりそうだから、と伸が来ると言ったのだ。

一見友達思いに見えなくもないが、伸の場合はただ面白がっているだけというのもあり得る、と当麻は思った。




「―――遠いとこ、悪かったな」


「別に気にしなくていいよ。ちょうど土日連休だったし。でも悪いと思うなら、何かおごってよね


にっこりと爽やかな――彼を良く知っている人間が見ると、魔性の――笑顔で伸が言った。


「はいはいι」


久しぶりに会っても相変わらずな伸に、当麻は苦笑いする。

少し当たり障りのない話をしてから、本題に入った。


「何か征士を怒らせた訳?」


「んな訳ないだろι」


最後に電話で話した時も、怒らせた記憶はない。


ただ――――


「やっぱり、心当たりあるんじゃないか」


「いや、でも、あいつ別に普段と変わりなかったし」


「君の見解はどうでもいいよ。で?何があったのさ」


冷たく一刀両断されて、当麻は凹みそうになった。


「……見合い、させられたんだよι」


「はぁ?何それ」


ボソリと言った当麻に向けられた、伸の視線が痛い…。


「……昔、親父が世話になったって人が話を持ってきてさ。それを親父が勝手に安請け合いしたもんだから、会わない訳にはいかなくなったんだよι」


伸の冷たい視線に耐えながら、当麻は続けた。かなり、恐い…。


征士には、事前にちゃんと話をした。

父親の恩人の顔をたてて一応会うけれど、それだけでちゃんと断るからと言うことも。


実際、その話は当麻が断って、それで終わっている。


「まあ、それは賢明だよね。征士の性格だと、後で何かで知ったりしたら、かなり怒るだろうし」


「だろ?話した時、征士も納得してたし……」


ちろり、と伸が当麻を見る。


「………頭で納得したからって、心までは解らないけどね」


「う…………ι」


当麻は、思わず胸を押さえた。
今日の伸は、なんだか一々言葉と視線に棘がある気がする……。


「何にせよ、きっかけはやっぱりそれじゃないの?」


「けど、なんで………」


話した時は、征士は本当に何時もと変わりなかったのだ。


「さあね、征士は征士で、何か思うことあったのかもしれないし」


伸の口調が冷たい。


「伸……。なんか今日、何時もより俺に冷たくないか?ι」


「だって僕、君より征士の方が好きだもん」


「なんだよ、それι」


「そのまんまだよ。―――あぁ、可哀想な征士。こんな馬鹿を好きになんてなるから。……僕にしとけば良かったのに」


芝居がかった風に、伸が言った。


「誰が馬鹿だよっ!ってか、お前には遼がいるだろうが!」


「最後は冗談だけど、君なんて馬鹿で十分だよ。ばーか」


「馬鹿馬鹿言うなっ!」


「馬鹿だから馬鹿って言ってんだよ」


「伸っっ


小学生並みの言い争いに、はたと二人が我に帰った。


「………いい歳してやる喧嘩じゃないな…」

「そうだね。まぁ、君の精神年齢には合ってるかもだけど」


「〜〜〜〜〜〜〜っι」


いちいち一言多い伸に、当麻は思わず拳を握りしめる。
昔から伸には適わない。特に今回は、自分の都合で来て貰ってるだけに分が悪い。


はぁ、と大きく息をついて当麻は気を落ち着かせようとした。
伸がちろりと当麻を見る。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ