当×征小説

□続 34歳 初夏
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なんでこうなるんだっっ!ι
と、当麻は歯噛みした。


あの後、征士と二人で伸の家に戻ったら、秀も来ていて。
全員揃ったのは久しぶりだ、ということになってしまって。
暫く皆で騒いでいたら、結局そのまま一泊することに―――


そりゃ、五人揃うなんて最近は滅多にないことだから、当麻も楽しかった……のだが。
久しぶりに、征士とあんなことやこんなことが出来ると思っていたのにっ!

しかも、泊まる客間は征士も一緒だが秀も一緒だ。

……伸のヤツ、絶対わざとだ……
自分は、ちゃっかり遼を自室に引き入れているくせにっ


はあ〜ぁι

と溜め息をついて、当麻は庭に出た。


伸の家の庭は結構広い。色んな木々や草花が植えられて、手入れも行き届いている。
けれど“作られた”という雰囲気ではなく、自然の息吹が感じられてとても落ち着く場所だった。


夜風が心地いい。


庭の隅の樹に凭れて、空を見上げた。
三日月が、冷たい光を放っている。

目を閉じた当麻の耳に、カサリと足音が聞こえた。


「―――当麻?」


目を上げると、愛しい恋人の姿。
夜の闇にも、その姿は細い月の光を受けて淡く輝いて見える。


「こんな所にいたのか。風呂から出たらいないから、探したぞ」


まだ少し湿った金の髪や、上気してほんのり桜色に染まった白い肌が、今の当麻にはかなり目の毒で。


「寄るなよ。……襲うぞ」


少し離れた位置でピタリと足を止めた征士の顔が、真っ赤になるのが夜目にも分かった。


「何を言ってるんだι」


「俺はあの時から我慢してるんだからな。いい加減、限界なの」


「……馬鹿者ι」


そう呟いた征士に、当麻が拗ねた顔をした。


「馬鹿だと思うさ、自分でも。……お前のことしか、頭にないんだから」


「………当麻」


「なんで、こんなに好きなんだろうな―――」


初めて会った時に、その姿に心を奪われた。
凜として、真っ直ぐな瞳をした光輪の戦士。曲がったことが嫌いで頑固だけれど、純粋な彼。

静かに澄んだ光を放つその存在を、当麻は月の様だと思った。

穢れを知らないその月を、地に落としたのは自分だけれど。

それでも征士はやはり綺麗だ、と当麻は思う。


「―――っ!?」


ふわりとシャンプーの香りがしたと思うと、征士が当麻に抱きついて来た。

ドクン、と当麻の鼓動が高鳴った。

征士を抱き締めてしまったらそのまま歯止めが利かなくなりそうで、両腕は背中の樹の幹に付けたまま、当麻はきつく目を閉じた。


「……馬鹿。襲うぞって、言っただろ」


「どっちが馬鹿だ。……自分ばかりが我慢してると思うな」


「……征士?」


当麻を抱き締める征士の腕に、力が籠った。


「私が、どれだけお前を必要としているか、お前はまだ解っていないのか」


当麻の肩に顔を埋めて、征士が小さな声で言った。


「私だって……お前のことばかり、考えているのに」


ぷつん、と当麻の中で我慢の糸が切れた音がした。


「征士―――!」


もう気持ちを押さえてはいられず、当麻は征士を強く抱き締めた。

噛み付くように唇を奪う。
その柔らかく甘い感触を、当麻は貪った。


長く深い口付けの後、もう一度征士の身体を抱き寄せる。
征士の唇から、甘い吐息が漏れた。

当麻は、頬を擽る征士の柔らかい髪に唇を寄せる。


(流石に、これ以上は不味いよなぁ…ι)


当麻はなんとか昂る気持ちを押さえようと、大きく息をついた。

本当ならば、このまま征士を押し倒したいところだが。

部屋に戻らない二人を、秀が探しに来ないとも限らないし。

伸に見つかったら、それこそ何を言われるか分かったもんじゃないι


「―――そろそろ戻るか。征士」


「………もう少し―――」


征士が、ぎゅっと当麻にしがみつく。


「ん?」


「もう少し…このまま―――」


征士にしては珍しいおねだりに、当麻は目を見開いた後、微笑する。
真っ赤な征士の耳に囁いた。


「何時まででも―――」


愛しいその存在を、今度は優しく抱き締める。


「愛してる……征士」

‐END‐

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