当×征小説
□当麻の幸せな日
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昨日、征士と喧嘩した。
電話を切った時には、もう原因なんて忘れてしまっていたけれど、結構どうでもいいことだった気がする。
あーι
今日は俺の誕生日だっていうのに。
しかも金曜だから、征士が泊まり掛けで来てくれるはずだったのに。
来て、くれるだろうか。
……来ないかもなぁι
35にもなって、誕生日がどうとかってのもヘンかなと思うけれど。俺たちは、お互いの誕生日にはなるべく会うようにしていたし、会えない時には電話をするのが暗黙の了解みたいになっていた。
プレゼントはお互い無しで、会えるだけでも嬉しくて。
今回は何もない誕生日になるかもなぁ…と、仕事を終えて淋しい気分で家路についた。
もしかして征士が来ているかも、という期待を込めてマンションの自分の部屋を見上げるが、真っ暗な窓にがっくりと肩を落とす。
「征士の馬鹿野郎……」
「誰が馬鹿だ。このエセ智将が」
ポツリと呟いた独り言に、すぐ後ろから返事が返ってきて、俺は驚いて飛び上がりそうになった。
「せ…っ、征士!?」
振り返るとそこには、怒った顔の征士が立っていて。
いつの間にっ!?
って言うか、来てくれるなんてっ!
混乱して、久しぶりに見るその姿に、やっぱ怒った顔も綺麗だよなあ、なんて間の抜けたことを思ったりする。
「遥々仙台からやって来て、馬鹿呼ばわりされるとは思わなかったが」
「いや、だって、来てくれるとは思わなかったからっι」
しどろもどろで答えたら、征士が怪訝な顔をする。
「何故」
「………昨日、喧嘩したじゃないか」
ボソリと言った俺に、征士がきょとんとした後、ぷっと吹き出した。
「気にしてたのか、お前」
「当たり前だろっ!征士は何にも思わなかったのかよ」
征士がふわっと微笑んだ。それだけで、俺の心臓がドキリと跳ねる。
「……つまらん喧嘩の意地より、お前の誕生日の方が大事だからな」
――――――
そんな台詞を聞けるとは予想外で、思わず固まった俺の顔を、征士が覗き込んで来た。
「当麻?」
その身体を引き寄せて、抱き締めた。
「ちょ…、当麻っ!人目を気にしろっι」
「かまわない。俺、すっげー幸せだし」
「ったく、馬鹿者っ!」
バシン!と殴られて、頬を押さえた。
「………痛いι征士」
手加減しないんだもんなぁι
「当たり前だほら、さっさと行くぞ。食事、まだだろう?」
さっきまでとは打って変わって浮かれている自分を、我ながら現金なヤツだなぁ、と思いながら、俺は慌てて征士を追いかけた。
★★★★★★★★★
「―――今日はありがとうな。本当に嬉しかった」
食事を終えて、家に戻ってから征士に声をかけた。
「別に。毎年のことだろうが」
上着を脱ぎながら、征士が言った。
「けど、今回は半分諦めてたからさι」
「馬鹿者。………私だって……お前に会いたいのだ」
赤くなって、最後の方は小さな声で、征士が言った。
なんだか、今日の征士は何時もの倍くらい可愛いんだけどっ!
夢かっ!?
それとも、俺の願望による幻覚かっ!?
現実なのを確かめたくて、征士を思いきり抱き締めた。
夢……じゃない。
「征士、なんか今日、嬉しいことばかり言ってくれるのな」
征士がくすり、と笑った。
「誕生日だからな。サービスだ。明日からはないぞ」
俺も、くすりと笑う。
「すっっげえ、愛してる」
「……私もだ。……お前がこの世に生を受けたこと、お前に出会えたこと―――全てに感謝する」
なんだか、泣きたくなるくらい幸せで。
でも、泣くのは照れくさいから、征士を抱く腕に力を込めた。
征士の静かな声が、俺の耳元で囁いた。
「誕生日、おめでとう。当麻―――」
‐END‐