(他)×征士小説

□月 ‐KAGUYA‐
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月は、隠れていた。

天空(そら)は暗く、照らすもののない大地も、何も存在しないかのように静かだ。


その部屋も明かりはほとんどなく、ただ闇の中に白いシーツの敷かれたベッドが見える。

その上で静かに眠る愛しい相手を、伸は見つめた。


しなやかな白い身体には、情事の痕が色濃く残っている。
さっきまで、悦楽の涙に濡れていた菫色の瞳は、今は長い睫毛に隠されていた。
シーツに散った柔らかな金の髪をそっと撫でて、甘い声を上げていた形の良い唇にキスを落とした。


何度か啄むようにした後、深く口付ける。

「……ん…っふ…」


征士が、苦しそうに声を上げて目を覚ました。


「……し……ん」


伸は黙ったまま、もう一度征士の唇を塞いだ。


「ん……は、……っ。伸……、もう、やめ……」


「駄目だよ、征士。……君が、本当に僕のものになるまで、止めない」


下肢に伸びた手に、征士の身体が跳ねた。


「いや…っだ。伸っ、もう…許し……っ、あぁっ」


抵抗の声も、最後は甘く震える。
そんな征士に、伸は薄く笑った―――



月が、静かに雲の切れ間から顔を出す。

征士の肢体は、その光にぼんやりと白く輝いて見えた。


「綺麗だね、征士………」


まるで、美しい月の精霊か何かのように。

そう、まるで―――


「……かぐや姫だ」


おとぎ話のお姫様は、月に帰ってゆくけれど。


「帰さないよ、天空(そら)には」


伸は、征士の身体をうっとりと抱き締める。
耳元に甘く囁いた。


「愛してるよ。僕の、かぐや姫―――」


‐END‐

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