当×征小説 番外

□朧月‐side.Touma‐
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足元すらも見えない様な闇の中だった。


当麻はそこを長いことさ迷っていた。
何も見えない中、手探りで出口を探す。

どれだけの時間が経ったのかすら判らなくて、何処までも続く闇に気が狂いそうになった時、その闇を切り裂いて閃光が走った。


――――!!


いきなりの眩い光とその衝撃に当麻の目は眩んだが、その光の向こうに一瞬見えたものがあった。


雨―――

月―――

そして


「征士―――!?」


雨に濡れて倒れている恋人。
その唇が、微かに動いたのが見えた。


『当…麻―――』


「征士っ!?征―――」


伸ばした腕は届くはずもなく、ぐらり、と足元が揺れて、当麻の身体は光の洪水に呑み込まれて行った―――




 *********




「―――征士っ!!」


当麻はガバッと跳ね起きた。
そこは、暖かな部屋のベッドの上で。


「当麻!?」


ベッドの脇に伸・遼・秀が驚いた表情で集まっていた。


「俺……一体―――」


呆然と呟く当麻に、


「君、大怪我してたんだよ。覚えてない?」

「けど、今、急に当麻の身体が光って―――」


「怪我、なんともないのか!?何か、治ってるみたいだけど―――」


その後も三人が矢継ぎ早に話しかけてくるが、当麻の耳にはそれはほとんど入って来なかった。


自分を包んだと言う光。

治った怪我。

さっきの夢(?)の光景。

そして、

ここにいない“彼”―――


(まさか……、征士―――!)


ベッドから飛び降りて、外に走った。
後ろで伸たちが何か言っているのもお構い無しで。


雨はもう止んでいた。
空はうっすらと朝の気配がしている。


微かな…本当に微かな征士の気と、夢で見た光景の記憶を頼りに走る。

程なく辿り着いたものの、そこには征士の姿はなかった。

ただ、僅かな気の欠片が、征士が倒れていたと思われる場所に残っているだけで……。
真珠のようなそれを、当麻は両手にそっと掬い取る。

小さな光輪(ひかり)の気配は、当麻の手の中で弾けて、消えた。


「―――征士……!」


絞り出すような声で彼の名を呼んで、両手を強く握りしめて当麻は蹲った。

間違いなく、あの時見えた光景は現実だったのだ。
そして、自分が助かった事と、今征士がいない事は繋がっている。

確信して、当麻は全神経を張り巡らせて、征士の気配を探った。

それでも、さっきのように微かな気すらも感じられなくて、当麻の顔に焦りの色が浮かんだ。


いけない―――!


何故だか解らないけれど、早く征士を見つけなくてはならない気がして。


「征士……。何処にいる……」


俺を助ける為に、何故自分を犠牲にした?

たとえ助かっても、傍にお前がいなければ何の意味もないのに。

征士のいない世界なんて、月のない夜空のように、真っ暗なのに。


「征士―――!」


当麻の叫びが、虚しく空に響いた。


《続く》

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