Short2

□Short系まとめ
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「なぁ、ルフィ」

「どーした、サンジ」

昼時、不意に料理人が船長に話しかける。航海士が戻ってきて、数日経った船の上。次の島には明日上陸だ。そんな状況下、彼の顔はちょっとだけ真剣だった。

「おれの海賊認識が間違ってなきゃ、海賊ってちょっと悪ィことするよな」

「んー!する海賊もいるな!それで?」

「なら」

料理人はニヤと笑う。その言葉を待っていたかのように笑う。

「ジャンクな食いもんで、夜更かしってのを、してみねぇか?」

東の海、メリー号の上。悪だろう?と言わんばかりのいたずらっぽい顔と向かい合う明るくなった顔。

「!!やるーっ!!」

一つ返事の興奮した声が響き渡った。

―――――――――

「酒飲むなら参加する」

「夕飯軽めにしてねっ」

「バカ云え!盛り上げ隊長ウソップ様がそんな楽しいことしてんのに寝れるか!」

残りの三人の返事も揃っていた。ならば、夕食はちょっと軽めのおうどんにして、夜更かしの算段をし始める。テーブルを五人で囲んで、真ん中の白紙の紙を見て。

「夜食は」

「フリット、揚げ物パーティーだ」

「うっまっそー!」

「うめぇんだよバカ。食いもんはこっちでするから、その他を決めてくれ。もちろんナミさんの意見最優先だ」

「私はなんか軽いゲームあったらうれしいわね、ウソップ」

「そこは任せろ。あと悪の夜更かしつったら」

五人の仲間が出来上がって数日とは思えないほどのチームワークで、狙撃手が張り切りメモを取り始める。

「とりあえずみんな終わったら一緒の部屋で寝るだろ?」

「そーだよなっ!!いーっぱい話するぞ!!」

「ナミさんとご一緒!!じゃあ外で飯食って、キッチンは片付けねぇとな!」

「私男部屋行ってもいいわよ?」

航海士の一言に、料理人は目をまん丸にしてかちんと顔をこわばらせた。

「だ、だ、だめだ、あそこはレディが寝れるところじゃねぇ……ぜったい、だめだ」

「ちょっと……そんなに汚いの?」

「そうだな、色々落ちてるから……ゾロの靴下とかゾロの腹巻きとかゾロの……」

「なんでおれだけだよ!」

「ギャハハハ!」

寝る場所を決めるだけでも賑やかだ。ともかく、寝所がキッチンに決まったのは言うまでもない。

「あとはゲームだな。ナミ、考えとくから先に風呂行けよ」

「ほんと?じゃあ任せるわ」

「じゃあおれも食材の仕込みを、と」

「ゾロは何がいいんだ?」

「花札」

「鼻の札か!ウソップみてぇだなー」

「いやどういうゲームだよ!」

こうして一味は、ちょいワルな夜ふかしの計画を重ねて立てていくのだった。

――――――

23時。ここは、メリー号の甲板。ライトで煌々と照らされ、テーブルの上には酒と食材。甲板には色々なゲームが転がっている。

「よーし!!みんな!のみもんもったか?」

「お前らのなんだそれ」

「酒飲めねぇやつはお子様ビールだよ、雰囲気だ雰囲気」

「これも結構うめぇんだぞ。口にちゃぁんと泡もつくし」

「なにそれ、美味しそう。後でちょうだい」

「もー!かんぱいするぞ!!」

「はいはい」

一味流締まらない会話の後、乾杯の声は揃って、グラス同士が宙にぶつかりあった。しゅわしゅわの酒とジュースが喉を鳴らして一口飲まれた後、ちょいワルな夜の会のスタートだ。

「うぉー!なんだこりゃ!!なんだこりゃ!」

船長の興奮した声が上がる。卓上コンロの上に、丸い鍋。ふつふつと油が温まっていく音。パッドに山と詰まれた串に刺さった食材。液をつけて、パン粉をつけてある。そして、よく見るとそれぞれ違う食材だ。山盛りあるのに、まだ冷蔵庫にもあるらしい。口直しのキャベツも山盛りだ。

「各自で好きなもんを揚げるんだよ」

「おいおいサンジそりゃめちゃくちゃ最高のワルだな……」

「ワルの基準がわからないけど、いいんじゃない?」

「早く食わせろ」

「てめぇで揚げるんだよ話聞いてなかったのか」

「あぁん!?」

「うるさいっ!」

いつもながらに拳が響き渡ったところで、レディファーストとばかりに航海士が串をとる。ぷるんと、パン粉で着飾ったエビが宙に跳ねた。

「油に入れるだけだよほー!跳ねには気をつけてねっ!」

「わかった」

航海士は油にとぷんとエビをつける。しゅわぁぁっと小気味良い音が響き渡り、それは男どもを駆り立てた。

「おれもやりてぇ!」

「ナミさんが終わったからな、好きにやれ。ソースも色々あるから」

「よーし!おれ肉!」

「待てルフィ、一本ずつだし鶏に豚に牛もあるぞ。おれはそうだな、1つ目はイカにするー」

「どれも食うけど一番は牛にする!」

「あんたは?」

「おれは、ホタテだ。貝が食いてぇ。お前は」

「おれはササミだ」

ぽんぽんと油の中に食材が沈む。泡がシュワシュワと纏わりついていく。下処理してしてあるそれは、短い時間ですぐに揚がる。油の海から引き上げれば、深夜には冒涜的と言っていいほどの強い油の香りが甲板に漂った。あとはいただきますの言葉と共に、ソースやチーズソース、ポン酢にくぐらせて、ふーっとふいて、熱を冷まして、かじるだけ。
さくっとカリカリのパン粉がさくっと音を上げ、食材の旨味がじゅわっと溢れ出す。

「うんめぇぇ」

「おいしーい!」

「酒に合うな」

「いやうまっ。サンジ、めちゃくちゃ贅沢だなこれ」

「だろ。ちゃんと計算してるから、今日のパットの上のは全部食えばいいぞ」

「やったー!!おれ次豚のやつ!」

一味は串を油にポンポンと放った。まだ食べたい、もっと食べたい。深夜の揚げ物は、そんな魔力がある。食べ盛りの若い五人にとっては、なおさら。うまいうまいと飲み物と揚げ物を干して。時々はキャベツの甘さに惚れて。そしてまた揚げ物を。串がどんどん積み重なっていく。

「よぉし!少し腹がくちくなったとこで!お待ちかねのゲームだ!」

「いよっ!待ってました!」

時計を彼らは見ていないが、もう0時を回っていた。そこからは狙撃手プロデュースのゲームの時間。

「今回はブロック抜いて積み上げるゲームだ」

狙撃手いわく、3×3のブロックを縦横に置いて、高く積み上げ、じゃんけんで順番に一本抜いて、積み上げていくゲームらしい。

「いやでもこれ」

「すぐ終わりそうだな」

「ね……」

「なんでおれの方見るんだ!」

「あー、そこは心配ない。ルールわかるまでルフィはおれとやろう」

「ルールわかるぞ!ブロックぶっ飛ばすんだろ?」

「ちがうわ!!」

全員で声を揃えてツッコんだところで。狙撃手&船長、料理人、航海士、剣士の順でゲームはスタートした。

「ほら、ブロック抜いてのせるんだよ。崩したら負けな」

「よし、ここだな」

「勢いよすぎだ!」

ルールがわかっているのかわかっていないのかわからない船長は、適当に一つ下の方を引き抜いて、一番上に置く。お陰でもうブロックが揺れた。

「ったく、こいつらのあとはきついぜ」

料理人は呆れながら煙草をふかし、スルッとブロックの上の方を抜いてひょいとのせた。まるでバランスを少し整えるかのようだ。

「すぐ終わっちゃ面白くないもんね」 

航海士も同様に、真ん中のあたりを抜いて、そっと一番上に置いた。

「勝負は勝負だ」

剣士は攻めるように下の方を抜いた。少しだけ重いブロック。また少し大元が揺れた。

「おいおい、ゾロ!もう少し楽しもうぜ」

狙撃手が上の方のブロックを抜いてのせる。同じくバランスを調えているのだ。

「そうだぞクソ剣士」

料理人は息を吸うように真ん中の下のあたりを抜く。またブロックが安定した。

「まだまだいけるわよ」

航海士も舌を出しながら真剣になって、同じくするっとブロックを抜いた。

「おれは攻める」

剣士はまた下の方、つまり一番下を抜く。タワーが少しぐらついた。

「よぉし!!」

船長はぐいっとブロックを素早く抜いた。二枚、素早く抜いた。

「バカ!そこは!」

そこは、剣士が抜いていた場所。おかげでブロックはバランスを崩し。

「あ?」

「え」

「な」

「へっ?」

いや、バランスを崩さずに、そのままきれいにすとんとまっすぐに落ちた。タワーは揺れている。けれど、崩れない。甲板に、真っすぐ立っている。
ぷっ、と誰かが吹き出した。つられて、みんな笑い出した。

「ギャハハハ、奇跡だ」

「流石、やるな!」

「も〜!ブロック抜けないわ!!」

「そんなことあるかー?」

「しし、やるだろ!!おれ!」

奇跡のお陰でゲームは継続。ゲラゲラと腹を抱えて笑いながら、彼らの夜はふけていった。

――――――

食べ物も飲み物もなくなって、ゲームも終わったのは深夜3時だった。彼らは少しだけ片付けをして、キッチンの布団に飛び込む。

「ちょっと狭いわね」

「まぁキッチンだからなー。寝る場所じゃねぇし」

「寝るなら甲板も悪くねぇ」

「よし!じゃあ今度甲板で寝よう!」

「そしたらキャンプ大会だな今度は。サンジ、BBQ用意してくれー」

「あぁ、いいぜ。今度は焼く方で」

「やったー!!」

小さく横に並んだ布団で、彼らは顔を横並びにして笑い合う。まだ興奮した顔。寝難いような顔。よほど、楽しかったのが見て取れる。

「ししっ」

その中でいっとう嬉しそうに、船長は笑った。

「これからも、楽しいこといっぱいやろうなっ!!」

深夜には似つかわしくない大きな声。けれど、負けないくらいの大きな声で、仲間たちは答えたのだった。

「おう!キャプテン!!」
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