償いの果ての海

□第3章〜奴隷と地獄の島〜
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バイオリンの軽快な音が島に着く前の船内を照らす。料理人がいなくなってどこかしんみりとした船内を少しでも明るくしようとしていた。
しかし、船大工は彼をこう叱った。


「仲間が一人掠われて酷ぇ目に合っているのに何で明るくなんかしようとするんだ」


音楽家はバイオリンの音を止めずに明るい曲を流し続けながら、船大工に背中を向けて、


「サンジさんは自分のせいで船が落ち込むことを望んだりしません。だから、明るくするのです」


「…成る程」


船大工はそれ以上何も言わなかった。音楽家が明るい音楽を掻き鳴らせば、元気になった狙撃手や船医と一緒にいる船長からリクエストが飛ぶ。


「ブルック!もっと明るくだ!!サンジに届くくらいに!!大丈夫、って安心させてやれるくらいに!」


船長は料理人が彼等を頼ったことを悔いているのでは、と考えていた。これからきっと酷く辛い目に合わされるのに彼自身を責めさせるのはあまりにも酷だ、と。音楽家はその思いを受け取って、


「了解しました、キャプテン。フランキーさん、この歌をギターで引いてくれませんか?」


「あぁ…もぢろんだぁぁ!!」


音楽家はぴたりとバイオリンを止めバイオリンケースに戻し、代わりにハーモニカを取り出した。さらに船大工が涙を拭ってギターを構え、渡された楽譜を見て引き始める。音楽家と船大工がその音に込めた感情が曲のタイトルとなる。


『優しさと信頼の二重奏』


ハーモニカの優しいしかし明るい音を引き立てるようにギターの強い音が響く。ギターの強い音は強い信頼の音です、と音楽家が笑う。


船長はサニー号の船主に立ち上がり、その二つの音をバックミュージックにするように叫んだ。


「サンジっ!!大丈夫だ!!絶対助けてやるから待ってろっ!!」


音楽と声は見える限りの海を揺らし、響いて、止まった。船医と狙撃手は笑って、


「サンジに絶対届いたぞっ!!」


「おうよ!今絶対安心してるっ!」


二人の声に船長と音楽家と船大工は顔を見合わせて笑った。



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