Short2

□凍てつきし者への太陽
1ページ/14ページ



「いい天気ねー」


「ふふっ、そうね」


甲板で伸びをしながら、暖かい日差しを浴びて寛ぐ航海士と考古学者。春島の気候だが、夜は未だ寒い。だから、昼のうちに身体を暖かくしておこうと彼女達はひなたぼっこを楽しんだ。
船長達も気持ち良さそうに甲板の芝生に寝転がっている。
皆が日差しを浴びてまったり寛ぐ、いつもの日常。


しかし、


この暖かな平穏は長くは続かない。
それは、一つの、自転車のベルの音によって突然凍り付き崩れ落ちることとなる。


チリン、チリン。


「あー、確かにいい天気だな。昼寝日和だ」


来訪者を告げるかのごとく、ベルが繰り返し、繰り返し、鳴る。空気が冷たさと重みを増し、一方で、船にたん、と軽い着地音が響き、船長達を凍りつかせ、


…1人の女性を震え上がらせる。


「あ、青…キジ…」


「ロビン!?」


船大工が、震えしゃがみ込んだ考古学者とアイマスクを整えている青キジを交互に見つめる。


「ロビン…!?大丈夫!?」


航海士が考古学者を落ち着かせるように背中をさすってやり、キッと鋭く青キジを睨んだが、彼はやはり暢気にぽりぽりと頭をかくだけだった。


「オイ、こいつ誰なんだよ」


「ロビンさんを震え上がらせるとはいったい…?」


「こ、こ、こ、こいつ、海軍のた、た、大将」


「ま、ま、前にやられちゃったんだ…」


船大工と音楽家の疑問に狙撃手と船医が震えた声で答える。前、彼にこの船が襲われた時には、料理人の足と剣士の腕、船長と考古学者の全身がヒエヒエの実の能力によって凍らされてしまったのである。


「で、何の用だ」


「おれ達をまた捕まえにきたのか」


臨戦体制をとった剣士と料理人が青キジを睨む。しかし、青キジは、甲板に寝そべりながら、


「おーおー、そんなに睨まなくてもいいじゃない…。お前ら、ほら、あれ…」


奇妙な沈黙が続き、大きな欠伸が一つ。


「やっぱいいや、忘れた」


「オイ」


狙撃手が思わずつっこんでしまうほど、青キジはマイペースを崩さない。しかし、考古学者は未だに震え続けている。ちら、とそちらの方を見つめながら、


「まぁ、今日の目的はただ一人…。そいつが話聞かせてくれりゃ、俺はお前らに何もしない。大サービスだし……面倒だ」


「後者が理由だろ!」


狙撃手がまた思わずつっこんだ。しかし、航海士は青キジをじっと見据えたまま、小さく息を整えた。


「じゃあ、誰なの…。その一人って?」


青キジはけだるそうにに立ち上がり、頭をぼりぼりとかきながら、静かに指をさした。


その指の先に立っている人物は。


「お前だ、あー、黒足のサンジ」


「………!」


料理人の顔が疑問と驚嘆に包まれる。一味の視線が一斉に彼に向いた。青キジはその料理人の顔を見ながらも何も語らず、手招きする。

その様子を考古学者は震えながら見ていた。仲間が指名されたことにより、震えはさらに増す。
怖い、怖い。言わなくても伝わる恐怖の感情に。彼女は耐え切れない。


「さっさとくれば何もしない、来ないと俺が面倒」


あとはわかるだろ、と青キジは自転車に飛び乗る。ベルを陽気に鳴らす彼の視線の先には氷付けの長い道が続いていた。


彼等にとっての恐怖の道が、続いていた。


料理人はその様子を見て、瞼を閉じ、強く拳をにぎりしめ、息を整えた。こつこつと足音を響かせながら、顔を青ざめ無言の船員達の前を通った。


「行くのか」


「あぁ」


剣士の短い質問に短い返答をする。料理人はやはり無言で船から飛ぼうとした。しかし、料理人の腕にほっそりとした手が巻き付く。料理人はちら、と手の主を見つめた。
考古学者が震えながら料理人の腕をとっていた。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ