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□Tell me our favorite food.
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雨は相変わらず甲板を叩いていた。料理人は、カッパを羽織り、誰かを待っている。この激しい雨の音。誰かが甲板に出たところで誰も気づきはしなかった。
「サンジー!!」
「もっと静かにこいアホ。あとカッパくらい着てこい」
料理人は、船長に持っていたカッパをかぶせると、よし、と気合いをいれてあるものを掴んだ。それは、船長がこっそりとってきた釣りざお。一味なら誰でも使っていい、海王類すら釣れる特別なものだった。
「よし、釣るぞサンジ!」
「おう」
横並びになって、豪雨の中海に釣りざおをひたす。すぐさばけるように甲板のそばに切りだし包丁がすでに準備されていた。
「なにつくるんだ、サンジィ」
「みんなの、好きなもんだな。とりあえずは」
釣りざおを見ながら、そんな話をする。船長は、しししっと笑った。
「なんだよ」
「サンジは、ちゃあんとみんなの好きなもん覚えてるんだなっ」
「……当たり前だろ」
料理人はまだ動かない釣りざおを眺めながら呆れたように息をつく。
「まず、お前は」
「肉!」
「……だろ。わかりやすい」
肉を食べればすぐに体力を回復してしまうくらいの肉好きな彼。そんなもの、見ていれば誰だってわかる。
「ゾロは?」
「米に合うおかず」
「そーなのか?」
「まぁ、わかりづれぇ堅物顔だしな」
料理人は、気づいている。彼が敢えてワの国で使う箸を愛用していること。そして、米とおかずを出したときには、いつもより食欲が増していることを。
「だから、魚でいいだろ。お前は海獣の肉」
「おうっ」
船長は頷いて、釣りざおを持ち上げる。だが、なにもかかっていなかったようでむすりとしながら、また釣りざおを元に戻す。
「ウソップも魚好きだよなー」
「旬のな。よく知ってんな」
「ウソップ自分で釣りしながら何回も教えてくれるから、覚えたんだ!」
船長はにぃっと笑いながら言う。昔あった狙撃手の父親ヤソップとそっくりなように、彼は何度も同じ話をした、と。
「へぇ。お前でも覚えられるくらいなら相当言ったんだな」
「失敬だぞお前っ!」
「……お、サワラ」
「聞けよっ!」
船長がぷんすか怒る間に料理人は軽々とサワラをつり上げた。そのまま生け簀に放って、次の餌をつける。
「じゃあお前、ナミさんのも知ってるだろ」
「みかんだ!」
船長は自慢げに言う。航海士が船で育てている彼女の故郷のみかんは彼女の許可がないと食べてはいけない。それほど、大好きで大切なみかんだからだ。
「なら、そのみかん、どーやって魚と合わせたらナミさん喜んでくれるだろうなァ」
ちゃぷんと海にまた竿をつけながら料理人は言う。船長はちらっと料理人を見た。
「サンジのならなんでもうめーけどなー」
「バァカ。当たり前だけどな。サプライズって、特別だろ」
「うん」
「だったら、ナミさんとロビンちゃんは当然のこと、野郎共も、なんかこう、特別なものにしてぇんだよ」
料理人は釣りざおを見ながらうめいた。船長はししっとわらって頷く。
「サンジがそーやっていっぱい考えたもんなら、みんな喜ぶなっ!」
「……ん。お、引いてるぞお前」
「……あ!つれた!サワラっ」
嬉しそうにはしゃぐ船長を見て、料理人はふっと笑った。
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