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□Birthday special cakes
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「あっ、ナミさん!頃合いになったらケーキも出すからね!」

「ありがと、鴨肉のロースト美味しいわよ」

「幸せェェ!」

暑さも日に日に増してきた7月3日。今日は航海士の誕生日だ。ならば宴。乾杯をしたあとには、彼女の大好物や思い出メニューがところ狭しと並んだテーブルが登場して彼らは歓声をあげ、おいしい食事をセルフでとりながら歌ったり主役の彼女に幾度と御祝いの声をかける。

「あっ、そうだ。サンジくん!」

「飲み物のおかわり?」

「ううん。ルフィの誕生日の話の続き聞かせて!」

「へ?」

料理人は、ハートにしていた目を元に戻してぱちくりと瞬きした。航海士は、ゆっくりと椅子を引きずり、ぽんぽんと叩きながら。

「ほら!主役の頼みよ!断れないでしょ?」

「え、ちょ、ナミさん!!そんなっ!!」

いつもとは違った戸惑うような反応を少しだけ面白がりながら、航海士は椅子に料理人を導いた。ひょいっとお皿をつまんで、料理人にもひょいひょいと料理をとってやりながら。

「ほら、食べながら話して。あんたこんな日も給仕ばっかなんだから」

「ヴ、めんぼぐねぇ。なみざんが天使だ、おでぎょうじぬのがな」

「それだったら毎日死んでるわよあんた」

航海士は呆れたようにズバリという。フルーツのカクテルを傾け終えながら。

「はい、もうそろそろ話してね」

「……あ、やっぱり?」

「当然よ」

航海士はすました顔で言った。そうスパッと言われると料理人はもう逃げられない。

「わかりました、ナミさんの頼みとあれば」

料理人は、食事をとりながら聞いてねと前置きして、気を効かせて航海士がとってくれたカナッペをいただきますとつまみながら話し始めた。

ーーーー

普通の誕生日がどんなものかわからない彼にとって(誕生日は忘れていたから、と彼は繰り返し航海士に重ねたのだが)どのようにして祝われるかなんて見当がつかなかった。スタッフの誕生日祝いもゼフが誕生日を作ったときはバラティエが出来立てだったから見たことがなかったから、どう祝われるかわからなかった。
ただ、誕生日パーティの前振りのようなものはあったのだ。

「サンジ、お前これ好きだったよな?」

例えば、写真とレシピを見せながらスタッフがそう尋ねてきて盛り付けの研究に意見をもらってやるとか言い出すし。

「サンジ、このレシピと付け合わせどうだ?」

同じレシピを持ってきて、付け合わせをずらりと並べて、お前がうまかったやつを採用してやるとか言い出すし。よほどそのレシピを作りたいのかと最初は思ったほどだ。
しかも、驚くべきなのは、それが初めての誕生日のちょうど三ヶ月前。料理のレシピが誕生日に関わると知ったのも、その日にこれやケーキ以外にいろいろなことがあったからなのだが。

ーーー

「そろそろケーキ出さなきゃ、ごちそうさま」

「えーっ!!」

途中で切られた航海士は声をあげた。確かにいつ食べたのか、皿の上は空っぽだ。でも、いや、文句が出たのは彼女だけではない。

「エェェェェ!!?」

「お前らも聞いてたのかよ!?」

一味もだ。いつのまにかテーブルの食事を食べ終えて、彼の話に聞き入っていた。

「まぁ、少しずつだって言ってたろ。続きは機会があったらだ」

「……まぁいいわ。ゾロには叩き込んどくから」

「覚えてるわけないって、マリモ頭には」

「んだと!?つるつる頭が!!おれはぜってぇわすれねぇ」

「あぁん!?」

「ハイハイ、ケーキ出すんでしょ」

航海士はいつものようにたしなめ、目をハートにしながらケーキを取りに行く料理人を嬉しそうに見守る。彼女が三ヶ月前に頼んでいたケーキはたくさんのフルーツが乗ったケーキ。

「お待たせ、プリンセス」

回りに狙撃手お手製のろうそくでできたシュークリームが20個飾られた、まるでティアラのようなバースデーケーキ。

「……さすが、やるじゃない」

クスッと笑い、王女様気分ですべて吹き消したあと、拍手に包まれながらバースデーケーキをまじまじと眺める。夏のフルーツのメロンや夏みかんやベリーがジュレに包まれてまるで宝石のよう。周りの生地は香ばしく焼けていてつややかなブラウンの王冠のようだ。彼女の大好きなみかんも数ヵ所に花のようにあしらわれた、カスタードクリームたっぷりのタルト。彼女にはいつもよりも大振りに切ったものを用意してくれた。嬉しそうにフォークで端をきり、口に運ぶ。

「うん、最高!」

「ありがたき幸せーー!!」

果物は噛み締めた瞬間爽やかな甘味と酸味を与え、カスタードの甘くてとろけんばかりの風味を引き立て口許を緩めんばかりの出来だ。仲間たちとタルトを誉め合いまた御祝いの言葉をもらいつつ、何度もそれを口に運びながら。

「ふふっ」

こんなに美味しい彼のバースデーケーキの秘密をもっと聞けたらいいなと心に密かに留め頬笑む航海士だった。

「サンジくん!おかわりー!」

「はぁい、よろこんでぇ!!」

<次回11月11日>
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