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□Birthday special cakes
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剣士は、甘いものが嫌いだった。それでも、料理人のバースデーケーキは、本人には言ってやらないが彼でも美味しく食べられるほどの逸品だったし、たしか今回はしむしむなんとかを使っているとか呻いていた気がする。とにかく、顔には出さないが、楽しみには違いない。ただ、今は美味い酒とつまみを干すのが先決なだけで。

「ほら、クソ主役。酒とつまみだ」

「……あー」

モドモドリガツオの刺身と熱燗をごとりと剣士の前に置いて、持ち場に戻ろうとする料理人。だが、そこで、剣士は何やら思い出した顔をした。

「おい」

「あぁ?」

「ナミんときの話の続きは」

料理人は、露骨に嫌そうな顔をした。覚えていやがったのか。そういいたげだ。

「ナンデコノキンニクノウミソマリモン……」

「聞かせろ。主役の命令だ」

「あっ!ずるいぞ!おれたちもきく!」

「おれたちも!!」

また、このパターンか。料理人は嘆息しながら、剣士のそばに皿を増やすようにぐいっと引き寄せた。刺身の他に、串焼きに竜田揚げ。これでもつまみながらと勧めるように。あくまで主役を崩そうという気持ちはないらしいのが見てとれた。

「ったく」

そう悪態ひとつついて、一味と剣士がつまみに手を伸ばしたのを見ながら、料理人はゆっくりと続きを話し始めた。

ーーーー

つまみ食いや試食をさせられたその日。もっと不思議な事件は15時に起こった。客はスイーツを求めてきているためか少な目だったから、休憩がてら彼は茶葉を探し紅茶を淹れようとしていた。

「おい、チビナス」

彼はゼフに呼び止められた。茶葉をもってこちらに来いと示される。しかも、店員たちとは離れた彼の部屋に招かれたものだから、まだ仕事中なのにと首をかしげた。

「今デザートをいくらか試作してるんだ。お前もいくつか食って、一番好みを聞かせろ」

「えっ?」

彼はさらに首をかしげた。ケーキの好みは人によってまちまちだ。だから、一番好みを言えなんて注文は今までになかったのだ。しかも数がなかなかに膨大だ。小さい一口サイズだが、種類もイチゴからチョコ、チーズに抹茶まである。

「ガタガタ言わずに紅茶をいれて食いやがれ!!」

「わわっ、わかったよ!」

彼は慌てて紅茶をいれて、小さなケーキをひょいひょいとつまみ始めた。それでも不思議なこともあるもんだと思うくらいで、誕生日の3ヶ月前というのにはやはり気づかなかったままだったが。

ーーーー

「ほい、ここまで」

「えっ」

「……みじけぇ。もっと」

すかり、と偉そうに呻きながら伸ばした手は空をきった。どうやら、つまみが切れた。見ると酒も空っぽ。話をしながらいつの間にか飲んでたのか。剣士は顔をしかめた。

「つまみも切れたんだから、ケーキ出すぞ」

料理人はさらりと話を流してキッチンに向かうと、ゆっくりとケーキの箱を持ってきた。一味はずいっと寄る。

「お前へのケーキは」

ゆっくりとケーキを開けると、一味はわぁと喚声をあげ、剣士はへぇ、と小さく感心した声をあげた。くつくつと、料理人は笑う。

「抹茶シュークリーム、タワーだ」

「おおお!!」

シュークリームが重なったタワー。蝋燭は回りに飾ってあり、シムシムホイップと抹茶を合わせて、甘さと苦味のアクセントを絶妙にしているらしく、見た目は美しい木のように見えた。しかも数がたくさんあるので、取り合いにはならない仕様になっている。
蝋燭の火をフーッと吹き消すと、火事にはならずこの木は安心して食べられるのだ。そんな設定が勝手に狙撃手によって付け足されたのはさておいて。

「……いただきます」

剣士は蝋燭を消したあと、シュークリームをひとつ掴んで放り込む。やはり剣士の好きな味。噛み締めてその味に満足した。ただ、料理人はくつくつ笑っているのには甘みで笑む顔をごまかすのに必死で気づかない。後でひとつ楽しいはたまた喧嘩になりそうなサプライズが待っていることにも気づかない。
シュークリームの木のまんなかに、ちょんちょんと硬めの抹茶クリームで作られた、マリモ型シュークリームが隠れていることなど。

<次回12月24日>
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