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□2019 Request Matome
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*剣士と料理人が共闘する話
今日は料理人と剣士が船番する日だ。犬猿の中の二人にも関わらず、彼らの機嫌はとてもよかった。料理人が機嫌がよかった理由は、美味しいアッサリンという貝が安値で大量に手に入ったからである。その名の通りアサリにそっくりでかつ肉厚な身が特徴の貝。それが時雨煮だの酒蒸しだのバター炒めだのにされてつまみや白飯などのおかずになると聞けば剣士も上機嫌である。秘蔵の酒を出してきて、早くも晩酌や昼食が待ち遠しいのだ。直接は言っていないけれども。
そして、待ちに待った昼食の時間はもうすぐである。バター醤油炒めはキャベツが鮮やかに完成済み。豆腐とワカメの味噌汁と長いもの肉巻き、そしてあげの煮浸しも。そして今回はつやつやの白飯と共にそれらを頬張るのだ。晩酌にはまた別の料理が出るらしい。こちらは剣士の隠している酒にことさら合うようなのでさらに期待を膨らませるのだった。昼寝もせずにキッチンで待ちわびるほど。
だが、そんな上機嫌、ずっとは続かないものである。
「おい、麦わらの一味出てこい!」
「……あァ?」
甲板が下卑た声で騒がしい。ご飯を少し蒸らすだけであとは食べられるのに。料理人と剣士は外へと飛び出した。
「お前ら二人だけか?」
「7700万と1億2000万です」
「なら都合がいい。二人だけなら」
「賞金はいただきだ!」
どすり、と鈍い蹴りの音がした。同時に、どすりと腹に峰が入る音がした。
「あいにくこちとら昼飯前でな」
「腹へってイライラしてんだ」
あからさまにむき出しになった殺気。ごくんと男たちは息を飲んだ。こちらの方が数は多いのに、なんだこの威圧感は。
「2秒で」
「片付ける」
真似すんな、とうめいたあとは。剣士は抜刀、後、右サイドへ。料理人はその頭に手を置き、ひょいとバク転で飛び越え左手へ。
「マリモ頭はよく滑る」
「抜かせ。着地でこけるなよ」
「けっ」
悪態をつきながら、戦闘体制。刀が多かったのが右、肉弾戦が多そうだったのが左だ。彼らはとっとと片付けたかったので、即座にそれを見抜いたのだ。
「何がにびょう、ぶっ」
「喋ってる」
拳を振り上げた大柄の男の顔に足を入れてインターバル。両腕をそのまま頭につけ、両足を開く。
「暇」
「ぎゃぁぁぁ!!」
回りを囲う敵たちは回転蹴りの餌食だ。用済みの男の背を蹴りあげる。げふ、と呻いている間に、ムーンサルト。
「ねぇぞ」
にぃ、と下向き様に金髪の下で煙草を燻らせながら笑うと、着地。器用に敵たちの顔を踏み空をわたる。
「く、この」
「よそ見してていいのか?」
「ぎゃあ!」
刀が、弾かれる。一刀、斬りあげて空へ。まるで目隠しだ。唖然としている暇なんてない。右が腹をせり上げ、左が豪腕を落とす。正面は口が、音速で抜けた。
「三刀流」
最初の男が落ちる頃には、奥義の組み終わったあと。
「鬼斬りぃ!!」
どこまで腹が減ってるんだ、とコックがぼやく技が炸裂した。
「え、えぇ?」
リーダーらしき男は唖然とした。黒足と刀が、紙屑のように部下たちを巻き上げては。ぼちゃん、ぼちゃん。海へと雨あられのように落とされていくのだ。しかも、恐ろしいことに。
「船長抜きで、この強さ」
「覇気も」
「抜きでな」
おののき、逃げる間なんてなかった。ぶわりと眼前で舞い上がった黒足が宙を塞ぎ、手早い三刀が地を塞いだ。容赦のない挟み撃ち。呻く言葉すらなく。
「うっし」
「終わり」
いつの間にか、甲板には彼ら以外残っていなかった。
「よぉし昼メシだ。手洗ってこいよ」
「あー」
そのあとは、午前と一緒。つやつや山盛りの白飯と共にバターと醤油の染みたアサリを口に運ぶ、上機嫌な二人がみられたそうな。
<end>
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