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□Checkmate Knights!
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平和な、お昼過ぎ。麦わらの一味は春の季節の冬島に上陸していた。周りは尖った樹林が立ち並び、少しだけ肌寒く、オーブンなどで火を使うキッチンやかんかんに製鉄をする船大工の作業場で少しだけ暖まってから、甲板で遊んだりくつろいだりする一味は増えていた。

「サンジー!!チョッパーがココア飲みてぇって!!あついやつ!おれたちも飲むー!!」

「仕方ねぇなぁ。マシュマロと生クリームどっちがいいか聞いてこい」

「わかったー!!おーい!!!」

そんな中、外で遊んでるらしい船長の声を聞いた料理人はゆったりと膝掛けを折り畳む。そして、テーブルに目を落とし、ふっと笑った。

「わりぃな、時間だ。チェック」

「おつよい!!」

ナイトがh3にいき、チェック。盤面では残りの駒が降参と歓声に踊っていた。どうやら彼らはチェスをしていたらしい。しかも料理人の圧勝のようだ。

「またやろうぜ、ブルック」

「えぇ、ぜひ!」

今度は負けませんと叫ぶ音楽家に笑い、紅茶のおかわりをそっと足してやると、彼はココアの準備に入る。

「そうだ、レディたちのも。ぐふふ」

「なんだか嬉しそうですねー、サンジさん」

「あぁ、今日は最高の一日だ!ナミさんとロビンちゃんもあたたかなアクアリウムバーでお昼寝してるのが見えた!!まさに天使のような寝顔!!」

料理人はハートを飛ばしながら、ポットを取り上げる。ヨホホ、と音楽家は笑った。

「なるほど、それはパ」

「言わせねぇよ?」

手早く足が飛んできた。ジョークなのに、と頭をさすりながら、

「それに今日は敵船の襲撃もなかったですし」

「まぁそれはどうでもいい。飯時に襲ってこなきゃ、運動になーー」

料理人は、瞳をかすかにぼわっと赤くした。はっ、と息を飲む。辺りを見渡す。

「サンジさん?」

「いや、気のせいか?レディたちに、なんかーー」

「なんだお前っっ!!!」

動き出そうとした途端、鋭い声がした。先程ココアを求めて剣呑としていた船長の声。気のせいではなかったのだ。目配せすると、キッチンの外に飛び出す。

「……!」

料理人と音楽家は甲板に立ったそれを見る。そして、瞳を驚きに見開いた。

「ロビンちゃん!!!」

「ロビンさん!!」

「うう」

先程までのんびりと昼寝していたはずの考古学者はその腕の中に捕らえられていた。そして、考古学者を捕らえているものが明らかに異質なものだ。肌は真っ白な布で出来ていて、黒の半月の目が浮かんでいる。人形なのは人形らしい。だが、体は大きくて、まるで半巨人のような。考古学者は腕を咲かそうとしたのだろう。だが、首をくっとつかまれ、口を塞がれる。

「う……」

「ロビン!」

すると、彼女の瞳がふうっと閉じられて一気に力が抜けた。くったりとした体が、敵の巨体に預けられてしまう。

「どういう状況だ」

「わからないわよ!急にどこからか現れて、ロビンを」

航海士は、捕らえられてはいなかった。いや、捕らわれる前に逃げたのか。

「殺気なんてなかったぞ!」

「見聞も薄かった!でもそれどころじゃねぇ!」

剣士は刀をくっと握る。船長は駆け出して拳を握り、人形につきだした。料理人は足を振りかぶった。だが、動きが速い。三つをかわして、島に着地した。連れ去ろうとしている。

「待て、おまえっ!」

「ロビンちゃんをーー」

船長と料理人が、追いかけるようにすたんと島に着地した。剣士が追い、他の一味も続こうとする。

ーー2人だけ。

どこかから、声がする。スピーカーだ。

ーー上陸を、許可する。

「あっ!!?」

だが、ぐらと海が揺れ、飛び降りようとした一味ががくんと体のバランスを崩した。

「のわっ!!?」

「壁!!?」

海からあちこちへと、壁が生えたのだ。固い、分厚い鉄の壁が。高く高く伸びたそれは、あっという間にサニーのマストと同じくらいになった。

「ちっ」

剣士は刀を構えた。彼の刃は鉄も軽々切り裂くほどに実力があがっている。だが、壁の向こうから、わんわんと響く男の低い声。

ーー万が一、壁を壊してこちらにきたら、この女はすぐに殺す。

料理人と船長は気づいた。剣士は舌打ちし、刀を納める。あちこちにある、スピーカーと監視電伝虫。そこから叫び声が響いているのだ。

ーーようこそ、麦わらの一味。ここは、狩り島だ。

「狩り島?」

ーーお前たちには、これからニコ・ロビンを救出に、そこから島の反対側の我が倉庫に来てもらう。24時間以内にだ。

考古学者の姿が、消えた。人形ごと、消えた。船長と料理人はきっと目の前を見やる。

ーー間に合わなかったら、ニコ・ロビンを殺す。そして。

彼らは思わず辺りを見た。転がるたくさんの棺桶。不気味だ。上陸したときは、気づかなかったのに。

ーーそこに、一緒に転がしてやるよ。

「なんだとぉ!!」

ーーもちろん、片方が死んだらそこにおいてやる。24時間以内ならまた1人入ってもらって構わない。

「……シンプルなルールだな」

料理人は、ぱくりと煙草をくわえて火をつけた。火に照らされたその表情は、決して穏やかではない。むしろ、怒りに満ちていた。

ーーこちらからの攻撃は20分後に行う。そこから、24時間だ。壁の上に物を通すのは許してやるが、壁の向こうにはいくな。

「……おまえ!ぶっとばしてやるからな!」

ーーやれるものなら、やってみろ。

プツリ、と通信が途切れた。料理人は、胸ポケットから時計を確認する。20分、作戦会議の時間をとってくれるほど敵に余裕があるのか。それとも。

「わっ」

ぽいと壁の向こうから放られた子電伝虫。料理人がそれをキャッチする。腕につけ、すぐさまとって、話す。

「もしもし」

ーーあぁ、サンジ君。よかったつながって。

「ナミすわん!!」

料理人はきゅるんと目をハートにした。航海士の目になった子電伝虫はどこか怯えるように話し始める。

ーーウソップがね、ロビンが捕まるとき気づいたことがあるんだって。

「なんだ?」

「くぉらっ、クソゴムわりこむなっ」

料理人を押し退けて船長が問うと、電伝虫の顔がまたかわった。

ーーあのな、見間違いかもしれねぇんだけど。

「うん」

ーーロビンの口に手を当てたとき、何か液体みてぇなものが見えたんだ。

おずおずと怯えながら口にしているらしい狙撃手。料理人と船長は顔を見合わせる。

「液体?毒か?」

ーーわからねぇ。チョッパーが滴探してるけど、蒸発したのか見つからねぇし……。

「……そいつは厄介だな。手に気を失うなんかを染み込ませてやがるのか」

「触らせなけりゃいーんだろ!ありがとなウソップ!!」

船長はごちんと拳を顔の前で合わせ呻いた。狙撃手は伝わったのに安堵したのかほっとする。

ーーお、おう。あとさ、これはブルックの話なんだけど。

ーー動く棺桶を見ました。

「あ???」

子電伝虫の顔が、またかわる。音楽家の唐突な話のふりに料理人は声を翻した。

ーー本当ですもん!!!

「おれは信じるぞブルック!」

「いや、しんじてねぇとは言わねぇ。さっきから確かに弱い気配が……あ、遠ざかる」

ーーほらーー!ルフィさんとサンジさんは信じてくださってますけど!!コワイーーー!!

ーーほんとにおばけなのかはどうでもいいがなぁ。おめぇらロビン救出に必要なもんはあるか?

今度は船大工に電伝虫がかわったらしい。また顔が変わった。

「肉!!」

「焼いてねぇぞバカ。そうだな、おれでも使えるカギ開けツールとかねぇか?海楼石の錠がかかってる可能性は高いだろ」

ーーおーけーだ。すぐ作る。

ーーあと煙星とか渡しとくな。使えるかもだし。

ーーどれが効くかわからないけど、解毒剤もいれとくぞ!!

ーーざっくりだけど外観の地図もいれとくわね。でも、中はわからないから迷うかも。

「頼む。その間、暇そうなブルックとクソ剣士とかわってくれ」

スペシャリストたちが動き出し、音楽家とずっと沈黙していた剣士が子電伝虫をとる。ぱくりと咥えた煙草を味わいながら、作戦会議しつつぎゃんぎゃん喧嘩する。だが、その会話は外野に漏れないように密やかだ。船長は少し離れて暇そうに棺桶やら上に取り付けられた電伝虫型スピーカーを見つめている。

「頼むぞ」

ーー頼まれてやるよ、特別に。

「んだとこらぁ!」

ーーヨホホホ、サンジさん、スペシャルグッズを投げますよー。

ひょい、と青いリュックがとんできた。小さくまとめられている。料理人がポケットに煙星をねじ込みゆっくりとそれを背負うと同時にアナウンスがとんできた。

ーー時間だ。

「サンジ!いくぞ!」

「あぁ」

ーー気を付けてね。

「おうっ!」

「おまかせあれっ」

電伝虫が切れた瞬間、麦わら帽子をかぶり直した船長と煙草を燻らせた料理人は、揃って森の奥へと入っていくのだった。


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