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□うそぷとこっくとけんしの話
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「サソリってこんなんだったか」
「違ェだろ。少なくとも前調理したときはあんなにしっぽは生えてなかったぞ」
「い、いやそれ以前の問題だろ!!?ハサミだって形がおかしいぞ。カマみてぇな」
島に上陸した3人の前に現れた巨人ほどある化け物。黒い鋼鉄のようなボディ。両の手に生えた巨大なハサミ。背にうねる6本の尾。ここまではまさにさそりのそれだ。しかし、料理人が言うように、背中から鋭い毒滴る尾がいくつも生えていたり、手のハサミがあんなにカマのように変化していただろうか。
「ともかく、通ってきた街が瓦礫しか残ってねぇとこを見ると」
「こいつが、それくらいの威力を持ってるってことだよな」
「なんでそんなに交戦的なんだよォ……逃げようぜ……」
狙撃手はじろりと品定めする二人を見る。きちきちと歯のあたりを動かしながら、サソリはぐわりと手を空にかざした。
「ウソップ、あれは威嚇って言うんだぜ」
「ということはわかるだろ」
「に、にげられません……」
「岩に隠れて援護しろ、おいコック。手ェ貸せ」
「あー、今回は10秒とはいかなさそうだ」
狙撃手は岩陰に隠れながら息を呑んだ。二人が、喧嘩をしていない。それどころか赤い目を剥いて協力を促している。つまり、それほど強いのだ。この化け物は。
「サソリってどう捌くんだ」
「普通は、肉がねぇから捌かねぇが」
「ぎゃー!!」
会話の最中、かっ、とサソリが目を見開いた。振り下ろす、刃状のハサミ。左右に分かれ、飛びかわす。狙撃手は頭を抱えて岩に隠れた。砂埃が舞う。鋭い斬撃が突き抜けていった。
「少し斬って、揚げるのは悪くねぇ」
「なるほど、じゃあ少し捌いてやる」
かっ、と灼熱の足が輝き斜め蹴りを放つ。剣士の刀が覇気を帯び黒刀となる。そのまま、背へ。
「!」
料理人は息を呑んだ。うねる尾がまとまり、灼熱の足を止めている。きりきり、と強い力で、宙の蹴りを押し返す。
「のわっ!!」
「サンジ!!」
そのまま跳ね飛ばされ、街の瓦礫にめり込む。剣士は舌打ち。攻撃を止めず、振り下ろす。刀を。
「なに!?」
だが、それは弾かれる。よほど硬い物質でできているのか。鍛え上げた黒刀でも弾かれるほどに。
「がは!」
隙をついてうねる尾。一刀で毒の部分は弾くも、剣士の腹を鞭のごとく叩く。そのまま固い背に叩きつけられ横たわり血を吐き出せば、料理人を弾き終えた他の尾が振ってくる。
「必殺、連続火薬星っ!!」
だが、そちらは剣士を捕らえなかった。幾度と放たれた火薬星が、尾の勢いを殺したからだ。煙が舞う。彼は体を転がして尾の上から抜けた。
「助かった」
「いいいよ」
剣士の言葉に狙撃手はさっと岩に隠れる。刹那、瓦礫から飛び出した影。料理人だ。けほり、と土に汚れ咳をこぼしながら、剣士の横に並ぶ。
「やっぱり、熱に弱ェ。尾が溶けてる」
「じゃあ……!!よけろ!!」
剣士が刀を前に突き出した。料理人は、かわし、右へ。続けざまのハサミの斬撃。振り下ろす。剣士に何度も。剣士は刀でそれを捌くも、かなりの力強さだ。豪剣。息つく隙も与えない。打ち合いの最中、服の裾がすぱりと斬れ血が滲む。
「ち、こっちも硬ェな」
交戦的な目。刀を持った敵と戦うときの目だ。料理人は手の方は剣士に任せるほうがいいと踏んだ。だから、狙撃手の方を向く。
「ウソップ、さっきのもっかいできるか!」
「で、できるぞ!」
「じゃあ……!?」
料理人は飛び出した。宙で体を燃やし、睨み据えた尾。刀で捌く剣士の方を狙っているのだとわかったから、
「ちょっと待て!待機!」
「ひえっ!」
流星のごとく蹴り出して、剣士を狙う尾を吹き飛ばす。熱と蹴りの力でネジ切られ、回転しながら一本吹き飛んだ。
「一本……!?」
だが、途端に足にしゅるりと巻き付いた何か。先程先端が溶けた尾だ。刺してこないにせよ、宙にいる料理人をぐいっと縛る。
「く、まさか……」
彼に迫る、鋭い毒の尾4本。料理人は目を見開いて息を呑む。串刺しにせんばかりに、迫る。
「ドクロ、爆発草っ!!!」
だが、狙撃手が放った弾。強い爆発とともに、尾を散らす。煙に、撒く。やったか、狙撃手は息をつくも。
「ぐ、あ」
彼の悲鳴が聞こえ、焦る。煙の下。尾に串刺しにならない代わりに料理人はどうやら斬撃の中に投げ捨てられたようだ。剣士におおいかぶさり庇う形で、背に斬撃を食らう。
「っ、がは!!」
そして、今度は料理人を庇うように投げ捨て、今度は剣士が第二波を食らった。吹き飛ばされる。ボロボロの体が2つ、狙撃手の隣に。狙撃手は顔を青ざめさせて、泣きそうな顔になった。
「ご、ごめん!」
「いいよ……わけわからねぇ毒食らうほうが、悪手だ。よくやった」
「だな……」
二人はよろよろと立ち上がった。きちきちとサソリの刀が鳴っている。次の攻撃が来るのだ。狙撃手は、怯え、息を呑んだ。だが、ぽんと叩かれた肩。料理人の、斬撃で斬れたボロボロの手だ。腕には壊れた子電伝虫の殻。慌てて逃げていく電伝虫を目で追いながらその痛々しい手を見ると心が引き裂かれそうになった。
「ウソップ、ドクロ何とかをもっかい頼む」
「え」
「だいぶ、効いてる……さっきので尾は残り2本だし」
「背も、剥がれてる」
狙撃手は岩陰からゴーグルで見た。確かに、2本だ。爆発で吹き飛んだのだ。そして、爆発で硬い装甲が剥がれている。炎に弱い。露出した弱点さえわかれば。剣士は刀を構える。料理人は靴を調える。
「おれは、空から」
「おれは、正面だ」
あとはわかるな。そう言わんばかりに、二人の傷だらけの影が消えた。狙撃手は震えを耐えて、コクリとうなずいた。きりきりと振り絞る弾。狙いは、残り2本の尾と、背中。
「ひっ、さつ、緑星!!」
狙いを定めて、緑星を吐き出す。先ほどと同じだ。弧を描くように吐き出す。狙撃手はさっと身を隠した。強い、軋む音。舞う髑髏の煙。サソリの悲鳴。先程以上の爆発音。ヒットした、確実に。
「悪魔風脚……」
料理人の体が、宙で業火に燃える。
「三刀流、極……」
剣士の体が、覇気に包まれ虎を作り出す。
「フリット・アソルティ!!!」
「虎狩りィ!!!」
料理人の灼熱の乱打が、剥がれた装甲から内側を焼き尽くし。剣士の一撃が、正面から敵を切り裂いた。
「グ、ギャァァァ」
サソリが、白目を剥く。悲鳴を上げる。やった、倒した。狙撃手は安堵に握り拳を空へとあげた。
「……え」
だが、刹那。響いたほうけた声。料理人は瞳を赤くした。剣士も、遅れてだが、同様だった。
「ウソ」
「ップ!!」
狙撃手は、体を固まらせた。爆発で吹き飛んでいなかった、2本の尾。煙に紛れた死にものぐるいの、最後の攻撃。そちらはまっすぐに迫る。先程まで隠れていた、狙撃手に迫る。彼は、もう、逃げられなかった。目を閉じる。あぁ、鋭い刃が近づく。毒が染み込んだ刃が、彼の皮膚に刺さってしまう。
「っ、あ……」
「ぐ」
だが、痛みはいつまでたっても襲ってこなかった。狙撃手は、恐る恐る瞳を開けた。そして同時に、顔を、震えに、青ざめさせたのだ。
「……!!」
右の尾は、深く料理人の燃える肩を、貫いていた。左の尾は、鋭く剣士の腹を抉っていた。ぽたり、ぽたり。紫と赤の混ざる液が、落ちる。