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□リュウセイ島の冒険
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岩と瓦礫の地表。倒壊の起こったとある島。島上には、ただ山のみが存在する。決して計算高くでなく、ただの自然災害のごとく乱雑に積み重なった大ぶりの岩の山のみが。

「ハッピバースデー、トゥーミー」

がこり、がこり。岩山を踏み登る小さな足。子供の足。口ずさむ、声変わりなき若い声。あたりは闇。ただし夜空は澄みきり、大きな月が空にポッカリと浮かんでいた。

「ハッピバースデー、トゥーミー」

瓦礫の中は、よく見ればぼきぼきに折れた木切れや屋根瓦が見えていた。住居だろうか。古びた新聞や雑誌が転がる。『特殊海流により東の海の島が空に消える?』『明日は七夕。なんのご飯を作ろうか?』『偉大なる航路の文化、武装色の覇気特集』だが、土に汚れてやがて消え、足はそんなものには構わずだった。岩山と同等に登るだけ。小さな頭が足を踏み出すたびゆらゆら揺れる。音を立てながら。まるで死にぞこないのリビングデッド。

「ハッピバースデー」

ぴたり、と足が揃って止まる。頂上。月明かりのミラーボール。眩いばかりのスターライト。暗い影を薄っすらと照らす。一人の少年の影を照らす。

「ディア」

声がやんだ。立ち尽くす。てっぺん、中心、すべての頂点に立ち尽くす。岩でできたバースデーケーキ。そこに立てられたただ一本の人間という名の儚い炎のキャンドル。

「……」

強い風が吹く。紡がれた名を消す。されど、月に照らされたキャンドルの火は、消えず、むしろ強く燃え上がる。

「ハッピバースデー、トゥー、ミー……」

小さな一筋の白い火が、天に伸びて力強く揺れる。一筋の流星が、輝き、瞬きながら、消えていった。頂点に立ち、片腕を天に伸ばした、少年の願い1つをのせ、消えていった。

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