short5

□100vol
1ページ/10ページ

〈1巻目〉

コックと音楽家がほしい。船長がそう呻いたその一言。あとでいいとは呻いたものの、空腹を紛らわすために、二人仲良く寝っ転がって、話題つなぎに試しに聞いてみた。

「どんなやつがいいんだ」

「え?」

「コックや音楽家、お前の仲間」

すると船長は腕を組んでうーんと悩んだ。

「そーだな……いいなぁって思うやつがいいな、ゾロみてぇな」

「性なんかそうそうわからねぇぞ」

「んん、わかるんだ。おれには!」

船長は自信満々に言い張った。剣士にはまだその意味がわからなかったが、しばらく旅をするうちに、その意味を知ることになる。

「悪くねぇ仲間を、見つけたな」

サニー号の甲板にもたれながら、わいわいと賑やかな様子を見る。目をハートにした料理人が航海士たちに飲み物を捧げていたり、音楽家がギターをかきならし、船医たちを楽しませている。

「お前も、そうだぞっ」

どうやら背中で聞いていたらしい船長が、にひっと自慢げに笑った。

〈2巻目〉

――なってくれよ、海賊の仲間に!

――いやっ!!

最初は誘いを断った。次は、手を組むだけのはずだった。最後にはお宝だけもらって、とんずらするだけ。いつものこと。海賊は単純だ。けれど、彼らと過ごしているうちに、はたまた、彼らと話し戦っているうちに、ここが居心地のいい場所になった。なってしまった。

「海賊なんて、大嫌いなはずだったのに」

サニー号。海図の整理をしながら、ぽつりと思い出した過去にため息をつく。目をハートにしながらドリンクを持ってきた料理人は、次は考古学者の方に向かっている。剣士は何やら船長と楽しそうだ。音楽家の音楽は盛り上がりを見せて、ぎゃいぎゃいと三人ほど楽しそうにはしゃいでいる。

「……あら」

ふと目を落とした先。バギーから奪い取った懐かしの偉大なる航路の海図。取っておいたのだ。

「なつかしーなっ、それ」

「あら、わかるの?」

「わかるさ!ナミと初めて会ったときのやつ!」

「やるじゃない。その通りよ」

剣士が寝たのかこちらに来た船長の言葉に笑って、彼女は懐かしの地図を見せてやるのだった。

〈3巻目〉
――ヤソップだろ、お前の父ちゃん。

ひらりと舞う麦わら帽子が、餃子のような帽子の上にのっかった。麦の香りのする、古びた帽子。赤髪のシャンクスから託されたと、聞いていた帽子。

「おいおい気をつけろよ、大事なやつなんだろ?」

「あー!ありがとう!ウソップ!」

近づいてきた船長に手渡せば、にかりと笑ってとすりと彼の横に座った。ちょうど音楽家はバイオリンの調整中。見渡せば、剣士と料理人は平和に喧嘩しているし、航海士はニコニコしながら海図を整理している。考古学者はどこに行ったのだろう。操舵手も影は見えないが。そして最後には、先程の思い出した言葉と、麦わら帽子が目に映る。

「なぁ、ルフィ。それさ、シャンクスにとっても大切だったのか?」

「そうだ!だからおれに託してくれたんだ!」

じゃあ、と狙撃手はピンと思いついた顔をした。なにか面白い話を思いついた顔。音楽家はゆっくりとバイオリンをおろした。船大工と船医も聞く姿勢。

「もしかしたら、父ちゃんもこの帽子を守ってたかもしれねぇな!」

「おお、どんなふうにだ?」

「妖怪ボウシタベチャーウからかっこよく銃で…」

ここからはしばらく狙撃手の独壇場。楽しい話の時間が、始まった。

〈4巻目〉
――あんた、足蹴にっ!!

剣士はふぁと口を開けてあくびをこぼした。わざとか、わざとでないか、どこぞの料理人の如く器用に足を伸ばして、ひっかけたそれ。航海士が強い風で飛ばした海図らしい。

「よく言う。おれの刀足蹴にしたことがあんだろ」

ひょいとつまんで、ちょっとむくれた航海士に差し出す。

「お礼は?」

「……ありがとう」

するとむくれ顔を取りなして、くすりと笑った。2年越しの意趣返しをされた気分になったから、おかしくてたまらなくなったのだ。

「あんた細かいこと意外と覚えてんのね」

「まぁな。それより、まだ風は吹くのか?」

「もう吹かないわよ。あの強い風以外は。押さえたけど間に合わなかっただけだし」

「……もうひとり、間に合ってねぇのがいるな」

帽子っ、と慌てた悲鳴。狙撃手の方に麦わら帽子がとんでいく。

「ぷっ、ほんとね」

航海士は楽しそうに笑いながら、海図をつまんで、椅子に戻っていくのだった。

〈5巻目〉
――いいコック、見つけたぞっ。

あのとき、彼の食事を一粒たりとも口にしていない食いしん坊が、仲間にすることに決めたと言った。ちなみにその言葉は、空腹の男が美味そうに食う様に笑顔を浮かべた彼には届いていなかったけれど。

「サンジー!はらへったー!!」

飲み物を出し終えて、ついでに喧嘩を終えて、キッチンに戻ってきた料理人。夕飯は何にしようかとレシピを開いた刹那、感知したようにとんできた。

「外の奴らと分けろよ。レディには渡してるから」 

「!キャンディだ!あめーえ!」

一粒ぽんと口に放り込み、甘さで口を緩ませる。料理人はふっと笑って、またパラパラとレシピをめくった。そして、不意に、目に入ったレシピ。

「夕飯はシーフードピラフだぞ」

「しし、肉もつけてくれ!」

考えとくよ、と返すと船長はご機嫌で飴玉の袋を掴んて走っていった。

「なんでだろうな?」

珍しいことだ。何だか一瞬で懐かしい気持ちにかられたからと言う理由で、メニューを選ぶなんて。思わず小さく笑い、彼は夕飯を組み立てだすのだった。他の一味も懐かしい気持ちにかられていた気持ちとシンクロしたなんて、思いもよらないまま。

〈6巻目〉
――バカじゃねぇのか。

それが、麦わらの一味の三強であり両翼たる二人の長い喧嘩の歴史の、最初の悪態と言っていいのかもしれない。放ったのは、料理人からだった。だが今は普通に剣士からでも売るし、もちろん料理人からも売る。

「このまりもまりも!」

「ぐるぐるばーかー!」

「やめんか!」

そして、悪態が小学生のような悪口になっているのは、言うまでもないし、航海士が拳でストップをかけるのも、恒例行事になっている。

「そろそろ今日の晩メシ考えるかな」

「昨日の海獣の肉は」

「お前が釣ったやつは明日ステーキだ」

「ならいい」

そして喧嘩がおさまると第2ラウンドのときもあれば今のように少しだけ穏やかな会話で解散するときもある。気に入らない二人だけれど、時にはぴたりと息があったり普通の話もしたりするのだった。もちろんそれを悪くないととっても、直接は言わずのままなのは言うまでもなく。

〈7巻目〉

――あんなに人に優しくされたのは、初めてだから。

「優しい、か」

ピラフのレシピを指でなぞりながら、彼は思い出したように呟く。殺される間際に、己の優しさに救われたように言われたあの瞬間を。

「別に野郎には、優しかねぇんだがなァ」

彼は空腹の人間を見過ごせないだけ。彼の信念に沿って、その行為をしただけ。それを優しいと形容するなんて、変わったやつだなと今でも思うのだ。

「いんや、サンジは優しいぞ!」

「いつの間に戻ってきたんだお前!?」

飛び込んできた船長に驚く。ちゃんと一人ひとりに渡してきたのだろうか。流石に独り占めはしないだろうが。空の袋を回収して、息をつく。

「まぁ御苦労。飴美味かったか?」

「うまかった!あとサンジは優しいぞ!」

「どこが?」

思わず問い返すと、船長はにひっと笑った。

「腹減ったやつ、見過ごさないとことかだ!」

彼の笑顔に、料理人は納得していないのかはたまた。疑問符を更に浮かべるのだった。

〈8巻目〉
「あっ、ゾロ目ぇ覚めたか!」

「ゾロのアニキ、ご無事で!」

剣士が目覚めるとそこは海の上だった。船長が雑用になって、少々いけ好かないコックに会って、現れた鷹の目と戦って。そして、眠って、起きて。

「まだ寝てろよー!ナミのいる島まで少しあるしさ、なぁジョニー」

「数時間はかかりやすよ。寝といてくだせぇ」

「いや、いい」

がしりと一刀になってしまった刀を掴み、ダンベルのように上下する。鍛えていないと落ち着かない。まだまだ目標に届くには、力が足りない。

「……ゾロはつえーなぁ」

「あ?」

狙撃手のボソリと囁かれた言葉に反応する。

「だってさ、大怪我なのにすぐ鍛えて。そんなんできねぇよおれ。また気絶しちまうって」

どこか含みを帯びた言葉。剣士はふうと息をつく。

「お前も、大概強ェから、いじけるな」

えっ、と少し輝かせた顔に呆れた息を漏らし、剣士は狙撃手の強さを説明してやるのだった。

〈9巻目〉
――いくぞ。

――おうっ。

彼女を助けんと並んだ、四人の男たち。その中に新入りが揚々と加わり、アーロン一味に乗り込んだ。

「あんたって、本当に女好きよね」

「もちろん、レディのことは大好きさぁ!」

メリー号。そんなことを呟いた航海士の言葉に、料理人は目をハートにして応じる。ふざけているのか、いやいや、これは彼のデフォルトだ。その後は煙草をふかしながらにこにこと笑って応対する。

「おれの愛の話を聞きたい?お茶つきで」

「愛の話はいらないけど、お茶とお菓子はほしい」

「りょうかいっ!!」

ビシッと敬礼したあとは、くるくる回りながらキッチンに赴く。くすりと呆れたように小さく笑って、それを見送る。

「……でも、きっと」

彼女はとうに知っていた。彼は、女好きだけでない。ただの女好きであれば、命賭けで戦うまではしないだろう。

「ウチの一味らしい、女好きね」

彼女の認識が間違ってないと彼女が知るのはきっと、旅を重ね始めてから。

〈10巻目〉

「ったく」

「てめぇは」

「ずびばぜん」

メリー号。ちょうど水から救い上げたところ。大切な麦わら帽子も、魚を見つけたからと言って飛び込んでしまった、泳げない能力者も。

「もう!せめてお宝のときに飛び込みなさいよっ」

「いや、そういう問題じゃねぇだろ」

「しし、だってさ」

ぷうっと水を吹き出して、目に映る四人の仲間に笑いかける。

「みんな、ちゃんと助けてくれるだろっ」

「あ??」

「そんかわり、みんなが危なくなったらおれが助けるしっ」

四人はキョトンとした顔をした。

「……せめて、溺れる回数は減らせよな」

「あぁ、同感だ」

ウンウンとうなずく狙撃手と航海士。頬を引っ張る料理人と剣士の顔は呆れたように笑っていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ