short5

□100vol
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〈11巻目〉

――使う?

鋭く目をひん剥いて、睨みつけた男。航海士はひたと固まった。アーロンパークの時も、同じように彼は怒りに満ち溢れていたのだろうか。

「ナミさん、大丈夫かい?」

「え、えぇ」

ローグタウンに向かう途中の島。たまたま海賊に出会い、海戦をした彼ら。その船の頭が、麦わら帽子の男の地雷を踏み抜いたのだ。
 
『なんだ、たったの4人か?うまく使える部下は』

「仲間だし!使うとか!言うなっ!!」

「……そのへんにしとけ」

「わかってるから」

「そ、そ、そーだぞルフィ。あとの奴らはおれが片付けたし!そのへんにしてやろう!」

船長をなだめにかかる三人。まだ出会って間もないのに、彼らは船長のことを理解し始め、かつ、彼の言葉を嬉しいと思っている。勿論、航海士も例外でない。

「ありがと」

彼の帽子をなだめるように叩いて、でもやりすぎよ、と彼らよろしく忠告を入れてやるのだった。

〈12巻目〉

「……悪かったな」

「え?」

音楽家は突然の料理人の謝罪にぱちくりとない目で瞬きする。宴が終わり、ぽつりと呻かれた言葉に。

「おれ、お前らを悪く言っちまった」

「悪く?」

「心が弱いとか命惜しさにトンズラしたとか、な」

どうやら彼が言っているのは双子岬でのことらしい。ラブーンを目の前にして、クロッカスから話を聞いて。そして、真実の過去を聞いた今、認識を改め直した上に申し訳ない気持ちになったのだろう。
勿論、そういう考えになるのは当然なのに、だ。

「サンジさんは悪くないですし、気の良い人たちですからわかってくれますよ」

「じゃあせめて、墓標に好物供えて、いいか」

「それはきっと大喜びしますよ!!詳しくお伝えしますね!」

「あぁ、頼む」

音楽家は骨を緩ませて料理人の後についてキッチンに向かった。優しい仲間に出会えたことに、喜びを覚えながら。

〈13巻目〉

「海賊弁当!海賊弁当!」

「わかったわかった」

ビビは、そっと覗き込む。海賊船の調理風景。スペシャルドリンクは飲ませてもらったが美味しかった。ならば、その食事はどうだろう。

「……すごい」

「だろっ、うまそうだろっ!」

船長はしししと笑った。まるで、踊るよう。酒を注ぎ、肉をフランベ。炎が踊る。かぐわしい匂い。よだれが口いっぱいにたまるよう。

「ね、サンジさん。味見させてもらってもいい?」

「あっ、ずりぃぞおれも!!」

もう、抑えられなくなって矢継ぎ早に呻いた二人に小さく笑って、料理人は胸に手を当てて一礼するのだった。 

「麗しきプリンセスに、感謝しろよ?」

〈14巻目〉

ジャングルの中に佇む、不思議な家。白くてとろけるような何かで出来上がったそれ。

「何だ、この家は……ん?」

ひくひくと鼻を動かして、入った先。中に置いてあったのは、ティーカップとティーポット。そして、見つけたのは、言わずもがな麦わらの一味の料理人である。

「これは……アールグレイか?」

茶葉のみセットされたティーポット。湯は別のポットにたっぷりと入っていてしっかりと保温されていた。ならば、茶葉にお湯を注いで、しっかりと蒸らして。打点を高くしてカップに注げば。

「んん、いい茶葉だ」

感心したように呻き、香り高いアールグレイに舌鼓をうつ。お茶請けはない。けれど美味しい紅茶があれば、それだけで優雅なティータイム。

「はっ!?」

ただ、1つ言えば料理人が我に返るまでの、ティータイムなのだった。

〈15巻目〉

病人を見るのは、彼は苦手だ。思い出すから。病気で寝込んだ大好きな彼女を。母と今では形容し難い、彼女を。けれども、ついていないとことさらに心配ではあるから、昼日中はずっと、ついていた。彼女に、ついていた。

「……よく、寝れてるかな」

ちょっと彼女が起きたような気配を察知するも、気の所為だと思うことにして。煙草に火をつけ、白い息とともに吐き出す。自主的に夜にも見張りをするのは、万一また海賊が襲ってきたら困るから。起きてないと不安だったから。いずれも、大事な理由だ。

「……ふー、さみぃ、さみぃ」

毛布にぎゅうと包まって空を見る。もうじき、満月だ。月明かりにほっとする。煙草の火は寒さで消えてしまいそうだ。でもつけていると安心するから、消えないように注視して。

「早く、次の島につきますように」

祈るだけだった。早く、次の島につきますようにと。
早く、彼女が良くなりますように、と。

〈16巻目〉

船長は、カナヅチだ。元々泳げなかったのもそうだが、能力者は、海水に弱い。海に落ちたらまっすぐと溺れてしまう。ただし、彼は勇敢であり好奇心旺盛であったし、助けてくれる仲間がいたから、海に何度か落ちたり飛び込んで溺れていたのはさておき。

「ちょっとここにいろ」

服をありったけ航海士にかけて、雪を睨む。躊躇なく飛び込んだ、雪崩の中。彼らを庇い今ここで流され、溺れている仲間を、助けるために。

「っ!!」

海以上に体を冷やす、雪の波。かき分けて、探す。仲間を、探す。視界は最悪だ。けれど、助けてやらねば、仲間がその身を砕かれ、溺れてしまうから。

「サン、ジ!」

黒。金。赤。なんでもいい。必死に体を動かして、雪をかき分け、探す。探す。白の中の異質なものを探す。

「!!」

見つけた。白の中で一頭目立つ、赤。かき分ける。クロールで泳ぐように。必死に、近づき、抱きしめる。いつもとは真逆の救出。カナヅチが、雪を泳いで、ぐったりした仲間を抱きしめた、瞬間だった。

〈17巻目〉

「バケモノさ」

目の前の男はにかりと笑ってそう言った。麦わらの男はもちろん、この男もどこか、ヘンだ。いい意味で、ヘンだ。船医はじんわりと胸に暖かさを覚えた。
あぁ、この感情に覚えはある。分かりづらいけど、ドクターと同じで「優しい」って感情だ。だとすれば、他の一味もそうなのだろうか。例えば、今船の上で、ダンベルを上げ下げしている男なんて。

「……隠れられてねぇぞ」

「お、おお!?」

頭隠して尻隠さずの状態の船医に、剣士はすっぱりとツッコんだ。呆れたような顔。けれど、そこに怖さはあまり感じられなかった。

「で、なんだ」

「お、おれ、そんなに体鍛えてるやつ初めてだ」

「へぇ、じゃあ」

剣士は小さなダンベルを船医の方に転がした。ただでさえ丸い目が、くりくりとなる。

「お前もやるか」

「お、おぉ!」

誘われて気合十分にダンベルを持ち上げたが、尻もちをついた船医。まだまだだな、からからとそう笑う剣士は、やっぱりいい意味でヘンだった。

〈18巻目〉

礼儀正しく弟が世話になっていると頭を下げた、船長の兄。料理人は静かにそれを見ていた。お茶を薦めたがお構いなくと断られ、船長に何やら渡したあと、風のように去っていった。弟を想った、穏やかな兄だった。

「兄弟、か」

航海士にも姉がいた。義姉らしいが、ずいぶんとそっくりに見えた。そして、妹をそちらも想っていた。剣士や狙撃手、船医にはいない。そして、ビビにも。王女にも。

「あれが、普通なんだなぁ」

他人事のように言い放つ彼。煙草をくわえて、笑顔さえ浮かべて、航海士が麦わら帽子に大切な紙を縫い付けるのを見守った。
このときの彼の心は無風。他人事。だから、奥底の彼の考えを読み解くことは、彼すらもできなかった。潜在意識で悲鳴を上げた、誰かの声など。

〈19巻目〉

スモーカーはぷかぷかと葉巻を吸っていた。立ち去りゆく海賊たち。麦わらに、ロロノア、長鼻、女、Mr.プリンスと名乗る男、王女。いや、最後は海賊とカウントしてはいけないが。

「……」

王女がなぜ海賊と一緒なのか。そして、まるで信頼しているように見えたのは何故か。スモーカーにとっては今はどうでも良かった。麦わらたちを追いかけている場合でもなかったし、そもそも追いかける気がなくなったのは当然として。

「クロコダイル」

彼の正義を曇らせるのは、先程彼を捕えたクロコダイルただ一人だけ。ならば、自身はどう動く。彼は虎視眈々と頭の整理を行う。葉巻の吸い殻が積み重なり、山となっていくかわりに、彼の頭はクリアに動き出すのだった。

〈20巻目〉

「にぐぅぅ!」

「本当にこれで治るのか?」

「治ぶっ、ぢがだりねぇだけば!!」

がつりがつりと肉を平らげる。水も飲み干す。急げ急げと言わんばかりに。気を失ってしまった分はタイムロスだ。急がないと。

「ビビ様はご無事なのか?」

「ばびびょーぶ、ばいぶらば、いぶっ」

「ばいつら?」

「おべのなばば、ばっ。ぞぼ、なび、うぞっぶ、ばんび、びょっばー」

「あぁ、いい。食べてからで」

食べながら仲間の名前をずらずら上げ、ごくんと飲み込む。ふうと息をつけば、その体はムクリと立ち上がった。

「だから!!あいつらとビビが持ちこたえてる間におれもいくぞっ!!」

彼の目的は、もう、クロコダイルただ一人。
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