Short3
□Well-balanced.
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モモイロ島、カマバッカ王国の昼時。
包丁の音が響き渡るキッチンでは、二人の乙女が楽しんでいた。一人は昔からここに住むリドアという亜麻色の髪の乙女。
そして、もうひとりはサンディーと呼ばれる、麦わらの一味の料理人サンジだった。
彼、いや彼女は、この島に来て新たな一面に目覚めさせられた。それは、辛い経験をふっ切れさせたためなのかは謎だが、サンディーとして見た目楽しく、生活をしていた。今日の彼いや彼女の服は海水浴で濡らしてしまったドレスを着替えた、ピンクのシャツとズボン。長いロングのかつらが、肩でひらひらと揺れた。
「サンディーちゃん、今日のメニューは?」
「乙女もたまには肉料理よ」
「あら、素敵。何肉にしましょうか」
「それなら――」
笑顔で振り返り、冷蔵庫を開こうとして、ぴたと固まる。
身体が急にさぁっと冷えて、胸の奥から急にもやもやしたものが湧いてきた。頭の中が、それに支配されて、身体が固まる。痛む頭を思わず押さえ、口元を押さえた。込み上げる気分の悪さに、嫌いな行為をしそうになる。口紅が剥がれ、手にべっとりと血のように染み付いた。
――しししっ、今日もメシ、楽しみにしてるぞっ!
頭の中に、満面の笑顔と言葉が過ぎる。
もやもやしたものは、喉の奥にぐぅっと溜まり棘のように引っ掛かって剥がれない。やがて急激な不安感が全身を圧迫する。どくんどくんと鼓動が高鳴っていた。
「…あいつ…!!」
ピンクのシャツと対照的に、顔が真っ青になった。化粧を腕で強く擦り、かつらを引きはがし、床にたたき付ける。
「サンディーちゃん!?」
リドアが奇声をあげて扉を吹き飛ばした彼を全速力で追う。首を傾げる乙女達を吹き飛ばし、無言で走る、走る。歯を食いしばり、汗を散らして。落ち残しの化粧が、汗でにじんで落ちていく。
やがて、足が海水を蹴った。ずぶずぶ、と繰り返し、繰り返し、彼の身体が海に埋もれて行く。シャツやズボンが海水を吸い込んでいく。深く深く、彼が立てないくらいに――
「サンディーちゃんっ!!」
「離せっ!!」
男以上に力強い乙女の力に屈せず、彼は海を突き進もうとする。
「どうしたっていうの!?」
「嫌な予感がすんだよ!!あいつが、たった一人で、苦しんでる気がする!!離せ!こんなとこでおれは…バカやってる場合じゃねぇ!」
彼が怒鳴りながらも進もうとする。リドアには、彼が言う「あいつ」が誰なのかはわからなかったが、彼が大切に思う人物の一人だと言うことがわかっていた。
「だから離せっ…!?」
どすり、と首裏に鋭い一撃が入る。不意の強い一撃に瞳が揺らぐも、彼は無視し、歯を食いしばって堪え進む。リドアは手を放して、ため息をつき、足を振り上げた。料理人は、必死に、海をかきわけて進む。
「オカマ拳法…眠れよい子よ」
傷ついた首と背に、海を割る程鋭い蹴りが突き刺さる。彼は呻いて堪え、海をかきわけまた進もうとするが、ついにぐらりと視界が揺らぐ。力の入らない腕をぐうっと、海へと伸ばしながら。
リドアの悲しげな瞳が、彼を捕らえた。身体を省みず仲間の元へ行こうとし海に伏していく彼を。
「…なん…で…おれ…は…」
――肝心な時に、弱ェんだ。
囁くように漏らして、彼は意識を手放した。ざぶん、と腕で波をかく静かな音を一つ、響かせて。
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