Short3

□Secret of my left eyes.
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「お前の左目、どうなってんだ?」


いまさらこれは禁断の、質問だと思った。


『Secret of my left eyes.』


ディナータイムにそんな話になったのは、訳がある。理由は、船長がおれと同じように片目を隠した人物を見たのだという。そいつが片方の髪をあげれば、両目の色が赤と青のオッドアイ。綺麗だすげぇってウソップと言い合いながら帰って来たんだそうだ。


そしたら、どうだ。
話題は一気に、おれの左目の話に。船長からホネの音楽家まで興味津々。じぃっとおれに迫って質問責めにしてきやがった。


「なー、どんなんだ?教えてくれよ」


「断るっ!」


思わず強い口調で言い放っちまって、騒ぎ立ててた奴らがぴたりと固まった。空気が一気に悪くなる。おれは、夕飯の雰囲気が好きだから、それをぶち壊しちまったのが、落ち着かなくて。嫌気と恥で訳がわからなくなって。サニー号を飛び出しちまったんだ。


「サンジっ!?」


声を無視して走れば、脚は速ェから、あっという間に船から離れた。誰かが追って来るのを引き離したまではよかったけど、どこを走ってんのか、どこを跳んだのか、どこを転がり落ちたのかも、判らなくなって気がつけばどっかの洞窟に居た。息を散らしながら、そこに座る。頭がやっぱり、ごちゃごちゃしていた。


左の髪を押し上げる。何のおかしいこともねぇ。眉毛が右目と同じ向きで巻いてるだけの話、それだけ。でも、第一声は、期待外れか変だのどちらかだ。


ガキの頃両目を出してたら変だと言われた。変ってことはダメって言うことなんだってわかったから、左目を隠した。右の方がまだマシだって言われて。


そしたら、今度は左目を色んな奴らに興味をもたれるようになった。力任せに無理に上げられては、変だで片付けられる。眉毛は何回剃ってもくるくる。今じゃ気にいっちまってるがな。


「…はぁ」


なんで、逃げちまったかな。昔のトラウマってやつか?さらっと笑われて終わりにした方が良かったのに。時々無駄にプライドが高くなっちまうんだよな、おれ。


「もう、夜か」


辺りはすっかり真っ暗。朝飯を作らねぇと、って使命と船に戻るのが嫌だってプライドが戦った。
体操座りで顔を伏せる。
帰るにしたって、どんな顔して帰りゃいい?


「………!?」


感じた殺気に顔を上げる。それでも誰もいなかった。気のせいか、そう呟こうとすれば、手足に巻き付いてきた何が。触手か蔦か。わからねぇけどやべぇ…!


「離せ…っ…!?」


首にも巻き付いてきたそれは、おれをどこかに引きずって行く。液体が跳ねる音と刃物の音。それで視界を覆っていく粉。嗅いだら少し瞼が重くなった。


「…いい加減に……しやがれっ…!」


痛む身体に精一杯力を入れて、触手か蔦かをぶち切った。粉が身体に回る前に振り切って、と思えば、


「……っ!」


刺付きの触手で顔面から弾き飛ばされた。切った左目の下。血が流れ始めるのがわかる。でも、気にしてる間なく触手が襲って来たから、またかわして。


「…アレ……本体か…」


前を向けば、見えた化け物の本体。
巨大くらげと人食い海藻が合体したようなのが前に見える。液体の音は、多分溶解液だ。


「わかりゃ……終わりだ…」


刺付き触手に身体を削られながらも、


「切肉…シュート!!」


柔らかい身体に蹴り込んで、ぶつ切りに。
半分になった身体は、下半身の溶解液に溶け込んで、動かなくなった。


「……っ…」


粉を、吸い過ぎた。絞められ刺で擦られた身体が、だいぶ痛め付けられてる。目の下から出る血が、止まらねぇ。
それでも、まだ、頭ん中に染み付いてた。



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