Short3

□Mutual help without consciousness.
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「…ここァ、いいとこだなぁ」


ある日のとある森の中。顔を少し嬉しそうに輝かせながら、料理人が歩く。手に提げた小さなバスケットの中には、つくしに薇など様々な山菜がたくさん入っている。


彼は食料の足しに山菜を取りに来たようだった。あちこちに繁る美しい緑、枝の間からは時々太陽が差し込みエメラルドのように輝いている。加えてぽかぽかと暖かい春の気候。森林浴や山菜取りにはもってこいだ。


「ナミさんやロビンちゃんも、来ればよかったのに。長っぱなやメカに船番かわってもらってさ」


料理人が残念そうに一人ごちる。彼女達は運悪く船長とともに船番に当たってしまった。冒険に行けない彼の船長が、麗しいレディ達に八つ当たりしないだろうか。彼は少しだけ心配していた。念の為、宥め用の菓子は作ってきたのだが。


「まァ、その長っぱな達はあと1時間で合流、と」


狙撃手と船医も森に行く用があると言った。薬草と武器になるものを探しに行くのだろう。確かに、この森には沢山それらがありそうだ。そんなことを考えつつ、辺りを見渡して、おっ、と顔を輝かせる。


「野性のイチゴか。ますますいいな」


茂みの中にひっそりと赤い実がなっている。それをご機嫌で料理人はもぎ始めた。甘酸っぱい香りが辺りに漂う。帰って何を作ろうか。バスケットの蓋を閉めながら、彼はすっかりご機嫌だった。


「何やってんだ」


「…のわァ!?」


突然の声に振り返れば、たちまち顔をしかめた。


「…んだ、マリモかよ」


「あァ!?」


料理人の背に立っていたのは剣士だった。不機嫌そうに立ち上がった料理人を見つめている。


「お前、チョッパーの監視くぐり抜けて…あ、迷子か」


「勝手に決め付けんな、のわァ」


「んだと!?迷子マリモが!」


「何だとこらァ!!」


いつもの喧嘩の声が静かな森に響き渡り、鳥がばさばさと飛び立つ。さすがに美しい森で場違いだと感じたのか、すぐに止めたは止めたのだが。


「……っ」


「お、おい」


「問題ねぇ…一時的なやつだ」


剣士の苦しげな言葉に料理人は顔をしかめた。剣士は未だスリラーバークの深手が完治していない。だからこそ船医の監視下に置かれつつ、外出が許可されている。料理人はそのことに加えて、剣士が何故大怪我を負ったかも知っていて、余計に気にかけている面もある。だから、剣士に小言を言った。


「お前、あんまチョッパーに心配かけんなよ」


「あー」


そこは案外素直だ、と料理人は何度か瞬きした。そして我に返ったようにバスケットを手にかける。ところがそれもひょいと取り上げられた。


「何すんだ」


「ウソップ達と合流するんだろう」


「あー。だが、バスケットとどう関係が」


「それまで持ってやる」


「おれァ怪我人に持たせる程だな…おい!」


剣士はバスケットをとったままどこかに歩き始めた。すると料理人は動きをぴたと止め、耳をそばだてた。剣士は構わずずいずい進み、ったく、と舌打ちして、慌てて追いつく。


「余計なお客呼んでくるな」


「お前と話してたら現れた」


「おれのせいにすんな」


「へぇ、お前のせいか」


「あァ!?」


そんな小競り合いの最中、さくさくと足音がついて来る。取り敢えずどこか明るい場所に。料理人はどう進むか悩んだが剣士はさくさくと歩いていく。


「お前が先頭に立つなんて、嫌な予感が」


「はっ、言って…」


目の前に広がった景色を見て、料理人はぱんと額を叩き、剣士は唖然とした表情になった。


彼等の目の前には、大股で10歩分くらいの、切り立った崖が広がっていた。



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