Short3

□まほうのて
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「ぬぉ」


キッチンの食料庫で、サンジのそんな小さな悲鳴が上がった。おれさまちょうどキッチンでねじ回ししてたから、気になっちまって、サンジんとこに行ったんだ。


「どーした、サンジ」


「小麦粉切れちまった。あー、食料配分ミスったちくしょう」


サンジが空っぽになった小麦粉を振りながら歎いてた。


ほんとはこの間遭難してた奴らにいろいろ食わせてやってたから無くなっちまったのに、サンジは敢えてそれを言わねぇんだ。サンジは「空腹の奴に罪はねぇ」ってスタンスだから、そのメシやった奴らに責任おしつけたりしねぇ。いい奴だよなぁ…おおっと、感心してる場合じゃねぇか。


「でも、次の島にすぐ着くんだろー?買い出し行けば」


「おやつな、ケーキにする予定だったんだぞ」


「あ」


サンジのため息混じりの一言で、気がついた。もうすぐ2時00分。3時にはみんな楽しみおやつの時間。ケーキを焼くならそろそろ作らねぇとまずい時間。でも小麦ねぇんじゃケーキ作れねぇし。


「サ、サ、サンジ!どーしてもケーキじゃなきゃ」


「ダメだな」


「なんで」


「一回作るって、決めたから」


なんだよ、その無駄なプライド。


「で、でも小麦粉ねぇんだろ」


「誰が小麦粉なきゃ作れねぇつった」


「へっ?」


あの、えーと、サンジ君。どういうこと?


「小麦粉以外で作りゃいいだろ」


「いやいやいやいや」


「んだよ」


「むりむりむりむり」


おれは全力で手を振った。いくら料理の魔術師のサンジだからって、そりゃ無理ってもんがある。


小麦粉卵にバター。おれがすんげぇ小さかったガキの頃、母ちゃんが作ってくれたケーキの材料覚えてんだ。


だから、


「小麦粉なきゃふわっふわのケーキなんて」


「出来る」


おれの反論遮って、サンジはおれの鼻をぴんと弾いた。鼻がソーセージみたいに揺れてる。痛ェ。地味に痛ェ。


「見てろ、今から小麦粉無しのケーキ作ってやるから」


最初、サンジが意地張ってるって思った。でもサンジが意地張ってるように見えなくて、思わず頷いちまった。


こうして小麦粉無しのケーキ作りが開始されたのを、ねじ回しそっちのけでおれは見ることになった。



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