Short3
□Valentine's Day
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かしゃかしゃかしゃ。
「………」
かしゃかしゃかしゃかしゃ。
「……………」
かしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃ。
「………もうちょっと離れて待てねぇか?」
「………!!」
生クリームを掻き混ぜる料理人が、じいっとそれを間近で見つめる船長に忠告を入れた。船長ははっとなって、慌ててカウンター席に移動するが、料理人は船長が居た所を見つめたまま。
「……ここはラーメン屋の列じゃねぇぞ」
「………!」
「………!」
「………!」
船長の背に隠れるように並んでいた狙撃手、音楽家、船医の三人も同じくカウンター席の方にかさかさとずれて動く。まったく、と息ついた途端料理人は扉口を見て目をハートにして、飛び跳ねた。
「ナミすわん、ロビンちゅわんまで!!前に並べばいいよほ〜!レディファーストなんだからっ」
「…ま、まぁ、サンジ君」
「今回は、この位置でいいわ。順番だもの。ありがとう、コックさん」
慌てたようにかつ優しく微笑みながら。航海士と考古学者もいそいそと船医の後ろに並んだ。料理人が目をハートにしながら、生クリームを掻き混ぜ終わり、ちらと扉を見れば、たちまち呆れ返った顔になる。
「……キッチンの中に入れ」
「………!」
「何の列だよ、第一」
「わからずに並んでんのかよっ!」
船大工が先にいそいそ入り、剣士が右手を背に隠し、左手で耳を塞ぎながら中に入ってきた。まったく、とため息混じりになりながら、泡立て器を軽く叩いて、ボウルを置いた。
「もう数分で、開店ですよ。っと」
粗熱を取っていたシフォンケーキを型から外して切り分け始める。ショコラとプレーンが綺麗に混ざったマーブル色。切った断面から香ってくるカカオと卵。最前列にいる船長がごくりと唾液を飲み干した。
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