Short3

□Valentine's Day
1ページ/5ページ



かしゃかしゃかしゃ。


「………」


かしゃかしゃかしゃかしゃ。


「……………」


かしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃ。


「………もうちょっと離れて待てねぇか?」


「………!!」


生クリームを掻き混ぜる料理人が、じいっとそれを間近で見つめる船長に忠告を入れた。船長ははっとなって、慌ててカウンター席に移動するが、料理人は船長が居た所を見つめたまま。


「……ここはラーメン屋の列じゃねぇぞ」


「………!」


「………!」


「………!」


船長の背に隠れるように並んでいた狙撃手、音楽家、船医の三人も同じくカウンター席の方にかさかさとずれて動く。まったく、と息ついた途端料理人は扉口を見て目をハートにして、飛び跳ねた。


「ナミすわん、ロビンちゅわんまで!!前に並べばいいよほ〜!レディファーストなんだからっ」


「…ま、まぁ、サンジ君」


「今回は、この位置でいいわ。順番だもの。ありがとう、コックさん」


慌てたようにかつ優しく微笑みながら。航海士と考古学者もいそいそと船医の後ろに並んだ。料理人が目をハートにしながら、生クリームを掻き混ぜ終わり、ちらと扉を見れば、たちまち呆れ返った顔になる。


「……キッチンの中に入れ」


「………!」


「何の列だよ、第一」


「わからずに並んでんのかよっ!」


船大工が先にいそいそ入り、剣士が右手を背に隠し、左手で耳を塞ぎながら中に入ってきた。まったく、とため息混じりになりながら、泡立て器を軽く叩いて、ボウルを置いた。


「もう数分で、開店ですよ。っと」


粗熱を取っていたシフォンケーキを型から外して切り分け始める。ショコラとプレーンが綺麗に混ざったマーブル色。切った断面から香ってくるカカオと卵。最前列にいる船長がごくりと唾液を飲み干した。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ