Short3

□Valentine's Day
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「ラッピングした方が?」


「皿のまま出してくれ!!」


「へーい」


マーブルシフォンケーキにとろりと緩めの生クリームをのせて、ミントを一つ。隣に舌でとろけるガナッシュチョコレートと甘酸っぱいオレンジにとろりとチョコレートをかけたオランジェットをそえて。シフォンケーキに合う紅茶はセイロン系のユバで。


「バレンタインスペシャル、完成」


「うぉぉぉぉ!!!」


歓声があがった。先頭が待ちきれないように飛び跳ねる。焦るなと手刀を入れられても、きらきらした嬉しそうな瞳を向けられて、ため息が一つ。


「じゃあ、先頭。お好きな場所で」


「はぁいっ!!」


素直に返事をして、置かれた皿を見つめた。だが、すぐには取らず、料理人の顔を見て、またしししっと笑う。


「なんだよ」


「お返しだっ!」


「あ…?」


首を傾げているうちに、素早く皿とティーカップを引ったくられて、料理人は瞬きする。訳がわからず、皿があった場所に次の皿を置こうとすれば。


「………」


そこには、キラキラと綺麗に光る丸い石が一つ。太陽の当たり加減か、石が金色に光って見えて。料理人はまた瞬きした。


「…お返し?」


「お返し」


「バレンタインの?」


「バレンタインの」


狙撃手がニィと笑って、ケーキと紅茶を零さないようふらふらして運んでいる船長を指差した。料理人の口元がおかしそうに緩む。


「…へぇ」


「ちなみに、おれも」


狙撃手が続いて置いた品に驚いているうちに、


「おれもっ」


船医にも、何か置かれた。
料理人は、それをじっと見て、くくっ、とさらに笑い声を漏らした。


「どーいう趣味だ」


「こういう」


「趣味だっ」


ケーキの皿を受け取って、狙撃手と船医は背中を向けて片手で親指を立てて走り去った。彼の目の前には、かわいらしく5センチ程度のニワトリの置物とそれより小さなひよこの置物が置かれて、楽しそうにコッコと鳴いていて。


「…かっこつかねぇの」


残された紅茶のカップ二つとニワトリを見比べて料理人は笑った。


二人が取り忘れた紅茶のカップはくすくす笑いながら考古学者が運んでくれる。さて次、と紅茶を入れている間に、音楽家が近寄る。


「どした。お前もなんかあるのか」


「はい、私も触発されてしまい」


「…お気になさらず。じゃだめなのかね?こういうのは」


「バレンタインはas・asだとのお考えでは?」


「…そんなもんか」


「そんなもんです」


煎れたての紅茶をカップごと差し出せば、シフォンケーキの皿と一緒に音楽家はつまんだ。ありがとうございます、と礼を言いながら音楽家が背を向けた途端、料理人は瞬きして、小さく笑う。


「…ニワトリ用か」


親指で摘めるくらいの小さなティーカップとティーソーサーが残されていた。ニワトリの前にそれを置いてやり、金色の石をひよこの背もたれにするように置いてやった。



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