Short4

□The Train's Christmas
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「ブランギーィィィィィ!!!!!」


そして朝。船医は涙を流し喚きながら、甲板で見張りをしていた船大工の胸に飛び込んだ。いつもならクラッカーを構えて誕生日おめでとうを言ってくれる一味がいないのは何故か。それどころか朝ごはんの香りすらないのは何故か。みんな海軍にでもさらわれてしまったのか?それとも…。船医がそれ以上マイナスな考えを口に出す前に、船大工は彼の背を叩いて豪快に笑った。


「がははは、修業したあいつらがそんなヤワなわけねぇし、大好きなおめぇのお祝いしないわけないじゃないの」


「え゙…?」


ひぐっと涙を啜れば、船大工はにんまりと笑った。ゆっくりと船医を床に降ろす。


「おめぇもっかい、枕元見てみろよ」


「まぐらもど?」


「楽しいプレゼントが一つ、置いてある筈だぜ」


船大工の言葉に船医はもいちど涙を啜って頷いた。蹄の音を慌てるように鳴らしながら男部屋に駆けて戻る。扉を開ける時間もハンモック型ベッドをよじよじ登る時間も惜しいくらい焦って焦って到着して。途端に目を見開いた。


「あああああ!!!!!!」


甲板まで響く声。船大工はニッと笑った。船医は涙顔をどうやっていいのかわからないまま、手に何かをもって駆けて帰ってきた。


「フランキー!!!くつした!!!くづじだぁぁぁぁぁ!!!!!」


あったのは一日早い赤色の毛糸の靴下。中には何かが入っているようでぷっくりと膨れている。


「さぁ、中身は何だろうなぁ。ほら、泣いてねぇであけろあけろ」


「ゔん」


船医は涙をごしごし小さな手で擦って拭うと、ブーツに手を入れた。まず、すこし固い、ざらつく感触を覚え、不思議がりながら引っ張り出した。途端、むにっと何かボタンを押す感触がして――


「わぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!?」


バーンだかパーンだか。勢い良く爆音が轟いて、船医は思わず手を放す。
途端、甲板にころんと中身転がった。黄色く、赤い丸が描かれている巻き貝。これは、と口に出す前に、


――HAPPY BIRTHDAY!!!チョッパー!!!!!!


大きな楽しげな声達が、貝から響いた。
船医はあわあわと驚き、ぐっと貝に近づく。船大工はゆっくりと歩み寄ってそれを笑顔で見下ろした。


――いやぁ、チョッパー!どうだ!お前のことだからかなり驚いたんじゃねぇか?


――もしかしたらおれ達がいなくなったって勘違いしてるかもな。


――チョッパーなら考えそうね。でも、心配いらないわよ。


狙撃手、料理人、航海士の声。どうやら考えを読まれていたらしい。少し恥ずかしそうにえへへ、と頭をかいた。


――ゾロさん、ほら。


――あー…おめでとさん。こりゃたんじょうびのさぷなんとかだ。


――サプライズよ。ゾロ。


――ロビンが言ったそれだ。


――省略しちゃダメですよ!!最初からっ!!元気良く!!!!


――あー…。チョッパーの誕生日のさぷらいすだ。これでいいだろ。


――おしい!!!!もういっ…。


――アホなことで貴重な時間を使うなァ!!!


航海士の拳の音ががんがん響く。船医はくすくす笑いながらそれを聞いた。


――とりあえずよー、チョッパー!!おれ達頑張ってサプライズ考えたから、楽しめっ!!しししっ。


――あとはな、フランキーが教えてくれるぜ。…ってことで。


――待ってるぞ!!!チョッパーっ!!!!!!


船長達の元気な声。音声はそこで途切れた。思わずにっこりと嬉しそうに笑顔を浮かべる。すると頭が大きな手の平でぽんと叩かれた。顔をあげて、さらにきらきら顔を輝かせる。


「フランキー!!何が始まるんだ!!みんなはどこで待ってるんだっ!!おれ、おれ、早く行きたいぞ!」


「まぁまぁ慌てんな。おめぇまだ全部靴下の中見てねぇだろ」


「えっ?」


船医は首を傾げて靴下を掴んだ。へにゃんと潰れた靴下をじっと見て、何も入ってないぞ、と言おうとしたが、ジェスチャーで逆さにしろと言われた。彼はおとなしく靴下をひっくり返す。


「わぁぁ!?」


ごどっ、鈍い音がする。背の毛を逆立たせてから、じっと音の元を見遣る。きょとんとただでさえ丸い瞳を丸くして、しゃがみ込んで見下ろした。


「……さいふ?」


現れたのは小さな小さな小銭入れ。赤い布についた白やピンクや紫の細やかな刺繍は、桜の花を象っていた。どうやら靴底に詰まっていたようだ。


「きれいだなぁ」


小さく嬉しそうに呟いてゆっくりとそれを拾い上げる。小銭がぎっしり貯まってるのに気づいて瞬きしていると、船大工はニィと笑った。


「その財布、ロビンが初めて縫ったんだぜぇ」


「えぇ!!?」


思わず小さな耳をぴくっとあげた。船大工は豪快に笑う。


「まぁ、それは会った時にまた聞くんだな。そろそろ時間だ、いくぞ」


「え、ど、どこにだっ!」


「…まぁ、ついて来いや」


船大工は船医をひょいと抱えた。船医はへ、と瞬きしたが遅く、いつの間にか瞳を目隠しされて。


「フ、フランキー!これついていくって言わないぞ!!」


「アウ!細けェことはきにすんな!!いくぞ!!」


「お、おお!?」


船医は船大工に抱えられたまま、船をあとにし、どこかに拉致されていった。



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