Short4

□Had a cold but…?
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考古学者が戻ってきてから、数日が経過していた。新しい船を手に入れ、狙撃手も戻ってきた上、船大工まで仲間に入った彼等はゆっくりと進路をとっていた。


今は、深夜。昼間は大声で騒がしい一味も眠りにつき、昼間とは違った騒がしさを作り出していた。


考古学者はそんな一味達を目を生やして甲板から見守りながら、くすりと笑う。今開いた本をなぞりながら、そっと空想に耽り、


「私はこの船に来てから、幸せしか味わっていないわ」


思わず言葉を漏らした。静かに笑顔を浮かべる。


受け入れてくれた太陽のように明るい船長、今や完全に信用してくれているのを感じる剣士、笑顔で色んな服を勧めてくれる航海士、想像もつかないような楽しい話をしてくれる狙撃手、おいしい料理を余すことなく幸せそうにくれる料理人、優しくいろいろ気遣ってくれるかわいい船医。そして入ったばかりの、豪快な船大工。


みんなみんな、助けにきてくれた。そして、温かい居場所と言葉をくれた。夢をくれた。生きる意味をくれた。もらってばかり。


「…ダメね、私」


幸せなことを考えていたはずなのに、申し訳ない気分になった。一味を色んな酷いことに巻き込んでいるのに、巻き込んで、しまったのに。こんなに自分の幸せばかり感じていいのだろうか。我が儘では、ないだろうか。


そんな暗い考えに結び付いてしまった、その時だった。


「……う…」


彼女の視界が急に揺れた。首を傾げ、額に手を伸ばせば、少し熱く感じた。どうやら微熱があるようだ、さほど医療知識がない彼女にもそれがわかった。


「………」


一瞬船医を起こそうとしたが、その腕はぴたと止まった。頭の中に浮かんだ、過去の自分。高い熱が出ようが、苦しくなろうが、食べ物もなく、布団もなく、一日、二日。


他の人間はそれを迷惑だの野垂れ死ねだの金になれだの罵って、無理矢理外に――


「…甘え過ぎね」


そう思ってしまった考古学者は、伸ばしかけた腕を元に戻して、本をぱたんと閉じた。頭の中でこれくらい、と呟き、立ち上がり、窓の外をごまかすように見つめる。少し震えぐらつく身体には、気づかないふりをして。



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