Short4
□The hurt never bother us anyway.
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くーくーとカモメがなきわめく、サニー号。忙しなく動く山高帽子に、長い鼻が擦れて揺れる。麦わらの一味、狙撃手ウソップの姿だ。
彼は誰かの側で仕事をするのが好きだった。船長ルフィとわいわい言いながら夕飯の魚を釣るのも好きだし、剣士ゾロがぶんぶんダンベルを振っている横でおしゃべりしながら緑星をいじったり、航海士ナミとみかん畑でしゃべりながら彼女の武器を開発したりするのも好きだ。料理人サンジの美味しい料理をつまみ食いしながら手伝うのも好きだし、船医チョッパーを面白い話でドキドキさせるのも、考古学者ロビンと本をあさりながら一緒に読むのも好きだ。もちろん、船大工フランキーと共同開発するのも楽しいし、音楽家ブルックの出来立ての曲を聴きながら楽しくハンマーを磨くのもいい。
一味も、仲間ならだれでもそうなのだが、そんなしゃべりに来る彼をいつもいっそう歓迎していた。 彼らもいつも以上に楽しく仕事に集中ができるからだ。
では、今日、狙撃手は誰のもとで忙しなくしているのだろうか。
「サンジ―、刺身こんなもんでいいかな。盛り付け」
「ん。あとは大葉もう少し飾っといてくれ」
「あいよっ!おれもそう思ってたんだ!!」
料理人のもとだった。今は昼前。彼らは今日到着したばかりの島で二人船番の最中だった。腹を空かせて帰ってくるであろう仲間のために釣れたての魚を刺身としてさばいていた。とは言っても、狙撃手は捌くというよりむしろ飾りつけ係。料理人がきれいに捌いた刺身をつまや大葉と一緒に、お皿に花のように盛り付ける役目だ。彼はアートに長けているため、料理人は信頼を置いてそこを任せて いる。狙撃手もそれが嬉しくて、どんどんお手伝いしてしまうのだった。
「よし 、完成。うまそー」
「まだつまむなよ」
「わかってるよぉ!!!せっかくの盛り付け崩したくねぇもんな!!」
狙撃手はそういいながらからからと笑った。そろそろ時計が12時になる。一味がにぎやかに冒険から帰ってきて、食事を始めるだろう時間だ。料理人はだな、と同意して、みそ汁を掻き混ぜに火の側に寄った。
「……!」
突然、料理人は火を止めておたまを置いた。体につけていたエプロンを脱ぎ、椅子に掛け扉に寄る。狙撃手は突然の料理人の動きに驚いた。
「ど、どうしたんだサンジ。そんな怖ェ顔して」
「なんか来た。敵くせぇ」
見聞色の覇気。敵の位置を把握できる能力。料理人はそれを一味の中で際立ったものを持っ ているが故すぐに気配に気づく。狙撃手も使えないながらもつい最近覇気の仕組みが飲み込めてきた。だから、そっとカバンをあさり、料理人の背にさっと隠れる。
「よしいけサンジどん」
「どんってなんだどんって」
「どんと行け援護はおれがするの省略系だ」
「紛らわしい略し方すんな!」
一撃狙撃手に入れた後、料理人は扉からばんと出た。美味しい料理がたくさん出来上がったキッチンでは、戦闘はしたくない。狙撃手もいつも通り怯えながらそれについてきた。
「手を上げろ!!!」
途端に向けられた銃口。ひいっと狙撃手は手を挙げた。どうやら近づいてきた気配は海軍のそれのようだ。二階から現れた彼らを右と左、前に上から銃口が計4つ狙っている。
「よ、四人もぉぉ……!?」
「なんだ、たったの8人か。なめられたもんだな」
「へっ!?は、8!?」
「な、な、なじぇ!?」
「お、お、臆するな!!けけけ見聞色持ちだ!!!」
敵だけではなく狙撃手も臆していたことはさておき、海軍たちは震えながらがちゃっと銃を構えた。料理人はニヤッと笑い、怯えている狙撃手を脇で小突き背で隠す。狙撃手ははっとして、うなずき、貝のようなものを取り出した。
「むむむ無駄な抵抗はやめろ!!おとなしく……!?」
途端に、何やら響いた大きな音。海兵の言葉は途切れた。何事かと怯え焦りきょろきょろ見渡している間に、がんごん がんごんと6つ。ぱんと輪ゴムみたいな音のあとに、またごんがんと2つ。
「なんだよ、さっきのでけぇ音。煙玉使うと思ってたのに」
「いやいや煙もったいねぇし。ちなみにさっきのはルフィの屁の音が入った音貝だ!」
「自慢げに下品なこというなっ!!」
おまけにもう一つごんと響かせた後。頭を押さえている狙撃手を無視しながら、料理人は甲板を見やる。
「で、だ……」
視線の先では海兵たちは倒れて山積みになっていた。
「もうちょっと、どうにかならなかったのか。お前ら」
「くぅっ……ぜ、全軍撤退!!!!!」
海兵たちはぎゃーと情けなく喚きながら一目散に海に陸に逃げていった。なんだったんだ、料理人は呆れながら狙撃手を見やる。狙撃手もさぁ、と首かしげだ。
「んじゃ、メシの方に戻るか」
「よぉし、任せろ!!!」
狙撃手はすばやくキッチンに帰ろうと走って行った。転ぶぞ、料理人は、そう笑おうとしたが、ぴたと足を止めた。さっきとは比べ物にならないほどの、殺気。敵の気配がまだ、続いている。
「ウソップ!!!!!まだ戻るな!!!」
「ひえっ!!?」
突然の怒声にびっくりして狙撃手は動きを止めた。身を料理人の方にひるがえし、なぜと問おうと口を開きかける。途端にひゅっと開いたキッチンの扉。やばい、と料理人は駆けた。
「やはり、海兵は使えんな」
「!! 」
「ウソップ!!!」
「使うなら、自分の身のみよ」
狙撃手はひっと体をかがませた。鈍い音。振りかぶられた右手と燃えた右足が宙で交差する。
「どいてろウソップ!!」
「サ、サンジ!!」
料理人は、ぎりと足で右手を押した。狙撃手は怯えながら、料理人から距離を取る。宙で押しやったまま均衡がはじけ、料理人は着地し、現れた男をにらむ。
現れた男は、真っ二つに裂けた海軍コートを羽織っていた。銀色の髪が太陽を反射させながら、息を整えていた。
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