命救われた。
感謝とか憧れとか尊敬とか。
それらとは少し違う。
ただ、あの人に仕えたいと。
ただ、あの人の側で命を懸けて忠誠を誓いたい、とそう思った。
「あっ、あのっ市丸副隊長ッ!!」
今日こそは、と。
廊下を歩くその背中に声を掛けた。
「ん?何や、どないしたの。」
柔らかい物言い、身の運び、揺れる銀髪。ほのかに鼻に届くあの人の香。
市丸、ギン副隊長。
目を向けられれば途端跳ねる心臓。
あれ程迄練習した言葉も上手く出てこない。
「先日の、御礼が、したくて…、その、命を助けて貰って、あの、僕はっ…!!」
サラリ
「へ?」
俯いていた顔をあげるとそこには市丸副隊長の顔
その、指が、僕の髪に触れている。
「え、あ。あの…!!」
事態に一瞬遅れて頭が働き出す。
副隊長の指の先が、吐息が、こんなに近くに。
ぶっ飛びそうな意識をギリギリ掴んで声を搾り出す。
「い、いちま、る副隊ちょ」「綺麗や」
「き…?」
先程から自分は間抜けな声しか挙げていないと少し客観的に思うけれど、それどころでなくて。
「綺麗や、て。この髪伸びたとこ、見てみたい。」
にんまりと笑み向けられれば、僕にもう返す言葉は見つからない。
心臓の鼓動が耳まで聞こえるほどに打ち鳴る。
サラリ、僕の髪から副隊長の指が離れる。
そしてその笑み崩さぬまま何も無かったように副隊長は背中をくるりと向けて行ってしまった。
ただ、あの人に仕えたいと。
ただ、あの人の側で命を懸けて忠誠を誓いたい、と一層強く、そう思った。
「髪…伸ばそう…。」
まだ落ち着かぬ息のまま、そう呟いて稽古場に走り出す。
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院生イヅルと副たいちょギン。
前髪話。
捏造にも程がありますw
たくさんの拍手ありがとうございました!