夢の中で、

□記憶の欠片
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「…だあれ?」

目の前の奇妙な人物に向かって私の口が勝手に開く。呂律が上手く回らず、間延びした言葉。何だろう、自分で喋ったのに自分の身体じゃない感じ。顔だけが強張ってる気がする。

「貴方は僕の事、知ってるでしょう?」

彼はゆっくりと自分の言っていることを自分で確認するかのように答えた。私が知ってる?知ってるはずない、初めてあった人なのに?知らない、と私が言う前に彼はまたゆっくりと言う。

「また会いましょう」

また?彼は私の頭に手を置いた。あれ、くらくらする。そう思った瞬間、私の身体はぐらりと倒れて真っ暗になっていった。



記憶の欠片



ふらふらとしていた感覚が徐々に戻ってくる。頭痛は治ってないけど、まあ大丈夫だろう。起き上がろうとして着いた手に吃驚してしまった。これ、コンクリート?急いで立ち上がり周りを見ると、この道を通っていく人達が私をちらちらと見ながら通っている。もしかして寝てた、とか?そ、そんなわけないよねー。…落ち着け自分!と言いたくなるくらい混乱してしまって、知らない道に放り出されて、怖くて何が何だかよくわからない。
その時、みゃあお、と可愛い声がして思わず振り返ると真っ白な仔猫。野良猫かな、としゃがんでみたら仔猫はふらふらと気まぐれな足取りで道路を渡っていった。信号は青。

「…危ない!!」

小さな猫に気付かずスピードを出す車。反対側の道路から聞こえてきた叫び声。飛び出したセーラー服の少女。そしてクラクションと急ブレーキの音。
私が状況を理解した時には少女は倒れていて、助けられた仔猫は震えていた。

「え、ちょ、どうしよう…」

こんな怪我をした人を見たことがない私に、激しく嘔吐感が襲う。震えた仔猫が近寄って来たので、一歩一歩踏み締める様に事故現場へと寄っていった。大丈夫だと自分自身にも言い聞かせながら、仔猫を抱き上げた。真っ白な仔猫は助けに入った少女の血で少し赤く染まっている。それを見て再び襲ってきた嘔吐感に耐える為、しゃがみこんだ。倒れている少女が見えた。

「く、ろーむ」

髪の毛は長いし、個性的な髪型でもないし、制服もうちのじゃない。でも、でも、クロームにしか見えない。クローム!!クローム!!大丈夫!?って言おうとした瞬間、またふらりとして意識が、ぷつんと切れた。






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