不可思議物語
□月と臆病者
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満月が顔を覗かせている、静かな夜。
虫の音を聞きつつ、2階で窓から空を眺めている少女は、ため息を吐いた。
1階の玄関のドアが開く音がした。父だ。
……今日も、『ただいま』は聞こえない。
父も、母も、何も言わない。
そして、何かが壊れる音がした。
「ちょっと!どういうことよ!」
耳に突き刺さるような金切り声に、彼女は体を震わせた。母の声だ。
「あなた、私に何を隠してたの!?」
「俺は何もしていない!!会社の仲間と飯を食って来ただけだろう!?それの何が悪い!!」
また、始まった。今夜も、夫婦が喧嘩をする。
目的はない。
ただ、自分のストレス発散の矛先を、どこに向ければいいのか、わからないだけなのだ。
そう彼女は考えている。