短編小説
□運命の旋律
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人の人生なんて 最初から決まっている
その運命というメロディーから逃れることは
誰にもできやしない――――
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気がつくと、狭い部屋の中にいた。
目の前には白いピアノと、そのピアノを弾いている幼い子供。
いつの間にこんなところに来たのだろうか。
確か、自分の部屋でベットに入ったはずなのに…。
「僕に何の用があるの?」
ピアノを弾いていた少年が話しかけてきた。
しかしその目はこちらに見向きもせず、台に置かれた楽譜に向けられている。
第一、何の用などと言われても、こちらは何故ここにいるのかすら分からないのだ。
答えられるはずもなく、部屋には少年の奏でるメロディーだけが静かに響いている。
「ここに来たということは、君は僕に用があるはずだ。
…まあ、大体の予想はつくけどね。」
そう言って、少年は相変わらずピアノの方を向いたままクスクスと笑う。
「また明日、ここにおいで。」
だからどうやって来たのかが分からないんだ。そう口に出そうとしたとき、少年の顔がぐにゃりと歪んだ。
いや、少年の顔だけではない。
床や壁、私自身までもが、空間がゆれているかのように歪んでいる。
「そうすれば、ちゃんと説明してあげる―――。」
少年の低い声が、かすかに聞こえた。