短編小説

□運命の旋律
1ページ/16ページ


人の人生なんて 最初から決まっている



その運命というメロディーから逃れることは



誰にもできやしない――――


*****



気がつくと、狭い部屋の中にいた。

目の前には白いピアノと、そのピアノを弾いている幼い子供。

いつの間にこんなところに来たのだろうか。

確か、自分の部屋でベットに入ったはずなのに…。


「僕に何の用があるの?」


ピアノを弾いていた少年が話しかけてきた。

しかしその目はこちらに見向きもせず、台に置かれた楽譜に向けられている。

第一、何の用などと言われても、こちらは何故ここにいるのかすら分からないのだ。

答えられるはずもなく、部屋には少年の奏でるメロディーだけが静かに響いている。


「ここに来たということは、君は僕に用があるはずだ。

…まあ、大体の予想はつくけどね。」


そう言って、少年は相変わらずピアノの方を向いたままクスクスと笑う。


「また明日、ここにおいで。」


だからどうやって来たのかが分からないんだ。そう口に出そうとしたとき、少年の顔がぐにゃりと歪んだ。

いや、少年の顔だけではない。

床や壁、私自身までもが、空間がゆれているかのように歪んでいる。


「そうすれば、ちゃんと説明してあげる―――。」


少年の低い声が、かすかに聞こえた。

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ