貢ぎ文

□君との差
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彼女といえば、やはり大抵の人が同じ年か年下の子を想像するのだろうか。

とはいっても、ついこの間まで俺もその概念にとらわれていた1人なのだが。

目の前で黙々と弁当を口に運ぶ夏実を見つめる。

大きな瞳は俯き気味で、長い睫毛が頬に影を落としている。

俺よりも3つ年上の彼女をかわいいと思うようになったのは、いつからだっただろう。


「光輝、どうかした?」

「いや、別に。」


何も話さずにそのまま見ていると、夏実が顔をあげ目があった。

かわいいと思って見ていた、などと言えるはずもなく、返事を濁して窓の外へ顔を向ける。

窓を締め切っているためさほど大きくはないが、微かに蝉の声が聞こえる。

騒がしい教室の中、俺と夏実のいる空間だけがひどく静かな気がした。


俺の入学した中学は大学までエスカレーター式で進学できる私学校。

そのため中学棟と高校棟がつながっており、生徒の交流の機会もない訳ではない。

生徒会もその機会の1つで、中1のときに俺は生徒会に入った。

そこで出会ったのが夏実だった。

高1という低い立場にありながら率先して仕事をこなす彼女の姿に、俺は惹かれていった。

そして新学年となった春、俺から気持ちを伝え、はれてつきあうこととなったのだ。

年のことは気にならなかった。

ただ好きだという気持ちだけが前にたち、そんなことを気にする余裕がなかっただけなのかもしれない。


「明日、どこか行かない?」


心地よい静寂を破ったのは、夏実の方だった。

見ると夏実の弁当は既になくなっていて、俺の弁当だけがほとんど手をつけていないまま残っている。

明日は休日で、部活もなかったはず。

それでも俺が少しためらってしまうのは、「デート」という行為が苦手なためだ。

男の俺がリードしなくてはとは思うのだが、気付けば夏実が俺の手を引いている。

ただ年の差を余計に実感させられてしまうだけにすぎない。

できれば行きたくない、のだが。


「神社の方で、花火大会があるんだって!
光輝が何も用事ないなら、二人で行きたいんだけど……。」


彼女にこんなに楽しそうに話されて断れる奴がいるなら是非お目にかかりたい。

俺は結局いつもこの笑顔に魅せられてしまうのだから。


「あぁ。何もないから行くか。」

「本当!」


スケジュール張を取り出し、何やら書き込む夏実は楽しそうに見える。

デート一つでここまで喜んでくれるのなら、たまには悪くないかもしれない。

所詮、男なんてこんなものだ。

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