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□heavysmokerの憂鬱
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−NewYork.
日本とはまるで違う冬模様
ハルは雪がしんしんと降りしきる中、仕事から帰宅した。
『ただいま〜!あ〜っ寒い!』
コートについた雪を払い無造作に脱ぐ。
『おう、お帰り〜遅かったじゃん‥ってメロと一緒じゃなかったのかよ』
『ん?うん、もぅ先に帰ってるもんだとばかり思ってた』
『いや、帰ってねぇけど‥ま、いいや。それより早く飯作って〜腹減った〜』
ゲームのコントローラーを脇に置き、駄々をこねる子供の様なマットにハルは溜め息をついた。
『バカ、今帰ったとこなのに、あんたとは違うんだから。少し休ませて‥マット煙草、』
帰りに立ち寄ったマーケットの紙袋をテーブルに置き、マットの向かいに座りながら彼の煙草を催促する
『……何。ジロジロ見ないでよ』
『いやだってさ、よくメロもこんないい女放ったらかしで、よく何日も家あけるよな』
『‥は?いきなり何?
メロは仕方ないじゃない、仕事なんだから。しかも今回はLに頼まれたんだから意気ごんでるんじゃないの』
『‥いや、それにしてもよ、』
マットはソファからのっそりと立ち上がり目の前のハルの隣に歩み寄る
ギシッとソファが沈む
『−ちょっ、マット、近い』
『‥ハウスにいた頃はまだガキっぽかったのに、いつからこんな色っぽくなったんだ?』
ゴーグルを外し裸眼でハルを見る
男特有の
妖しい瞳。
『マット!いい加減に−‥!』
マットは煙草を持つ彼女の右手首を力強く掴んだ
『煙草まで覚えて‥
ハルは悪い子だね〜。何ならこれからする事も覚える?あ、これはもうメロから教わってるか』
喉が笑う。
−いつものマットじゃない
ハルは危機感を抱き隙をついて逃げようとした
『−っと、』
そうはさせない、と彼女の両腕を掴み身体に覆いかぶさった
『馬鹿!!マット!やめてよ!』
マットの胸を叩き必死の抵抗
だが若い男の力には敵うはずもなく
マットはそっとハルの頬に触れる
『いつもメロばっかり‥ハル‥たまには俺の事も見てくれよ‥』
見た事のない切ない目で
思いがけないマットからの告白−‥
彼女にkissをしようと顔を近づけた
その時
けたたましい銃声
『きゃあ‥‥っ!』
マットと彼女のいるソファが煙りを吹いて穴があいていた
「−‥マット、次は外さない‥」
カチャリ、と引き金を引いた
彼女は涙目になっている
『はぁ〜せっかくいいとこだったのに‥。またメロか』
マットは彼女の方に向き直ると、再びそっと頬に触れ瞳を、合わせる
彼らしくない、切ない、苦しそうな表情を
彼女に一瞬向けた
その後彼は
その感情を押し殺すかの様に、彼女に微笑みかけた
優しく、愛しげに、
哀しげに
さっきまでの事を
詫びるかの様に−‥
彼女に触れていた手を離すと
何かを決意したかの様にギュッと握り
身体から名残惜しそうに離れる
だが瞳は最後まで彼女に合わせたままだった
体を反転させると頭を掻きながらメロの方へ
メロはマットを冷酷な目で睨み続ける
そんなメロを気に止めず、何事もなかった、とでもいう様に彼の横を通り過ぎる際、肩をぽん、と叩き
『あいつも昔みてぇにガキじゃねぇって事だ。放ってばかりいたら悪い虫がつくぞ』
メロは目を見開き、言い終えるか言い終えないか素早くマットに銃口を向けた
「‥マット、よくわかった。お前、もな」
『‥よく分かってんじゃん』
マットもメロを冷ややかに見やる
上着を取り、ゴーグルを着け直してひらひらと後ろ手で手を振る
そのまま彼はドアを開け出て行った
『−‥メロ、』
「‥−放りっぱなしで悪かったな‥」
彼女を力強く、抱きしめた
『−メ、ロ‥?』
「初めてだ、自分の中で‥こんな憤りを感じたのは‥」
−殺してやる、と思った
マットと彼女の光景を目の当たりにした時
体がざわつき怒りで手が奮えた
わざと
銃口を外したんじゃない
手が、奮えていたから−‥
「‥俺は本当にこの手で、マットを−‥」
−−−
−−
−
『チッ、失恋かよ‥またメロに持ってかれたな』
−街灯の中1人煙草を吹かしながら夜の寒空を歩くマット
『−けっこう本気だったんだけどな‥』
そう呟きながら煙草を口にやる
『‥ま、いっか。今日はリンジーのとこに泊まらせてもらおっ、と、』
彼が吹いた煙草の煙りは
言葉とは裏腹に
また降り出したNewYorkの雪に
悲しげに溶けていった
fin.