小説

□異世界に迷い込むオムニバス―デュオ・マックスウェルの場合―
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デュオ・マックスウェルの場合










「――以上で説明は終わりです。此処から先はご自分で世界を見て、感じて、覚えていって下さい。」


チュートリアルを終了しますか?

はい ▼
いいえ


「いいえ!」


元気良く否定の返事が響き渡り、画面がチュートリアルの最初の物に変わる。
続いて本来なら、「では、もう一度説明しますね。まず此の世界の成り立ちは…」とプロローグを語り、次いで戦闘其の他のシステムの解説がされるのだが。
其の解説者に当たるエルフの少女は、知的に光る縁無し眼鏡の後ろで、南海の様な碧翠の瞳を細め花の額(かんばせ)に皺を寄せてみせた。

「……いい加減にしてくれませんか?もう二十回以上聞いてるじゃないですか。」
「おっ!やっとシステム以外の口聞いたな?」

然し其の不快の表情を作らせた張本人であるデュオは、寧ろ嬉々として少女の様子を眺めた。

「思った通り、怒った顔も可愛いな。」
「馬鹿な事言ってないで!……ああもう、こんな軽薄な勇者は初めてですよ。」

デュオの反応に少女は深く溜息をつき、目の前の相手を睨む。
然しデュオ…今しがた此の世界にやってきた新米勇者は、初期装備であるブロンズの鎧姿の儘、唇を尖らせる。

「だってよー、勇者とか俺のガラじゃねーし。」
「…じゃあ如何して僕の所に来たんですか。」
「其れは…成り行き?」


ある朝見慣れない「母親」に叩き起こされ、今日は旅立ちの日でしょう?と言われ、朝食も食べず最低限の装備とあぶく銭だけ渡されて、揚句家を放り出された。
旅立ちなぞする気もなかったのだが、そもそもあんた誰?此処は何処?俺はデュオ、状態で立ち尽くしている訳にもいかず、町を出る前には寺院のエルフ様に挨拶すると云うしきたりに従って、此の白大理石の寺院へとやって来たのだ。


「まあ其の御蔭で、かわい子ちゃんに会えたけど。」

神話の様な真っ白いローブに身を包み、共に涙型の翡翠をメインに遇ったサークレットとネックレスで額と胸元を飾り、エルフである事を示す細長く尖った耳に華奢な縁なし眼鏡を掛けた、美少女。
其れが寺院のエルフ様、チュートリアル担当のNPCだったのだ。
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