小説

□兄(こいびと)を撃ち墜とした日
1ページ/3ページ







いきなさい、つぎにあうときは










兄(こいびと)を撃ち墜とした日












古い太陽電池が生む最低限の電力が、非常灯と明度の低い常備灯だけを稼動させて、より室内の無機質さを強調させている。
薄緑や青のダイオード光に浮かび上がるのは、培養液に浸かった胎児や胚や卵。永遠に年下の儘の兄や姉や、同位体達だ。


「だから君の存在は、赦されないのだよ。」

非難の台詞は然し、睦言の声音で紡がれた。
髪を撫でる掌と全く同一の手が何処かにあると思うと切なかった。

何時迄経っても温もる事の無い硬質な金属の床に白い軍服を敷いて、血は繋がらなくても遺伝子と罪業で繋がった兄妹は寄り添い抱き合っていた。
其れもまた、体の何処かが繋がっているのではないかと云う程にぴたりとくっついているのに、何方かの体温が移る事はない。

互いに歪んでいる為に、上手く噛み合えば絡み合って挟まり合って、寄り掛かりながら支えられるだろうと云う、そんな有様だ。


「君一人を生み出す為に私達の様な出来損ないが、何十何百と作られ消されていった。君は生まれながらに兄や姉の屍を踏み付けているのだ……此の、白い足に。」

糾弾されている筈なのにキラは寧ろうっとりと其の声を聞き、憎い仇、誰のでもなくまさに自らの魂と未来を殺した相手にそうするには優し過ぎる仕種で、クルーゼはキラの華奢な爪先を掌で撫でた。

完全を目指しているからか。
否、そうではなかろう。此の美しさは。矢張り命を踏みにじっているからであろうか、キラの足先は美しかった。
手袋を外した掌で踵を包み、形の良い指の先をなぞる。
連合の軍服を着せ掛けただけで後は素裸のキラは擽ったいと微笑を漏らし、尚も今抱き合う、互いに“まともな人間”であったら兄と呼べる筈だった相手にしがみつく。


「そんなに憎いなら、殺してくれれば良いのに。」

そして彼女もまた、恋人に甘える少女の声を出す。
同時に其れは、明確な疲弊と何処か投げ遣りを通り越した諦観の片鱗があった。 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ