シリーズ・SS

□単発SS集・暗
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その本当の意味を僕達はまだ知らない













キラの胸倉を掴んでいたカミーユの手首を、キラの手が掴んだ。
思わぬ其の反撃と、まるで憎しみを篭めているとしか思えない握力に、カミーユは少しだけたじろぐ。彼を止めようとしていた何人かも、其の姿勢の儘軽く硬直する。



「何を…」
「理想を押し付けてるのはどっちだ!僕が一度だって、少しだって、君達に殺さない事を強要した事があったか!!」


殆ど絶叫に近い声をキラは張り上げる。

此の場に居る誰も預かり知らない事だが、其れはかつてキラが砂漠でバルトフェルドと闘い、生存本能だけで彼と其の恋人を討ってしまう事となった際“殺したくなんかないのに!”と泣き叫んだ声と同じ声音だった。



「僕が敵の機体の何処を狙って撃とうが、僕の勝手だ!」
「そんな…そんな傲慢っ…」
「殺しが嫌いで何が悪い!喪失を恐れる事の何が悪いって言うんだ!!」

掴んでいた手を弾き落としキラは尚も叫ぶ。
何時の間にからひどく色彩の落ちた大きな紫色の瞳は然し、カミーユではなく……もっと多くの、広くの物を睥睨する目であった。




「…僕は」



しん、と全ての空気がキラの声量と雰囲気に支配される。
数人の傍観者同様に、コウもまた呆けた様に其の様子を見守るしかない。



「其れがどれだけ無駄であっても、一つでも多くの命から銃口をずらしながら、引金を引くしかないんだ。そうとしか生きられないんだ、だって、」




ソウ、生マレテキテシマッタカラ

ソウ、創ラレテシマッタンダカラ












「――あんな生き方、辛いだけだろうにな。」


キラが居なくなった其の後の場に、悲しげな顔のアムロの、心底からの同情を乗せた呟きがやけにはっきりと響いた。

カミーユは顔色を、怒りなのか恐怖なのか判別の付かない蒼白に染めている。



「見えたんだろう?カミーユ。キラの手足に絡み付いているモノが。」


一体何が、と恐過ぎて訊けないコウの目の前で、カミーユは頷く。


「全て受け入れる事で、何もかも拒絶しているんだろうな、キラは。――…可哀相に。」





澄み切っているのに何も映していないキラの瞳とは逆に、アムロの瞳は今、何もかも見通しているのに澱み切っていた。


其の瞳を見て、カミーユが見たと云う物を想像して。コウは心底、自分が『普通の人間』で良かったと安堵した。



fin
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