小説

□優しい異物
2ページ/3ページ

恐らく今ストライクフリーダムのコックピット内では、凄まじいスピードでキラが自機と遠隔操作兵器のOSに手を加えているのだろう。

迫ってくる擬態獣の攻撃を紙一重で回避しつつ、一騎もまた総士と共に其の作業音を聞いた。



「勿論クロッシングには及ばないけど……其れに近い状態は作り出せる筈…!」











「――ほら、僕を見て!」


目を凝らして
耳を澄ませて
感覚を研ぎ澄まして


「解るだろう?君達の中に、君達のどちらでもないものがある。」



『僕でも一騎でもないもの…』
「俺でも総士でもないもの…」




瞬間。
そう、本来は本当にごく僅かな時間であっただろう、然し二人にとってはひどく長く感じる、言ってみれば永久の刹那。

一騎と総士が重なり繋がっている其の傍に、何か見た事も聞いた事も触れた事も味わった事も嗅いだ事もないものがうずくまっていた。







「そう、其の異物が僕だ」





大脳皮質でまでは繋がっていないせいか、キラの声は外部音声として聞こえてくる。
異物…成程、そう表現するのに相応しいものだ。




「――僕はそこにいる」




同時、一騎と総士に向かって其の異物は口を開けた。
否、粘菌が胞子を撒き散らす為に弾けた瞬間の様に、大きく拡がったのだ。

驚く間すら与えない異物は其の儘二人を呑み込み……完全に混ざり合った。







チリリリリリ…







何処か遠くから、小さな鈴が振られる様な、細かな音が聞こえてくる。











 あ
 あ

   此
   れ
  は





  の

    共
    鳴

 だ












す、と一騎と総士は顔を上げた。
真紅に染まっている瞳は然し、“種を持つ者”が其の能力を発露する際の色をしていた。




「…僕の見ている世界が、認識できるね?」



姉が弟達に何事かを説き噛んで含ませる様な口調と、寧ろ柔かな声音とに導かれる儘、一騎と総士はキラの感覚と云う容量を通した世界を見た。



視野が広い。
視界が明るい。
敵の位置が解る。地上の物も空中の物も、背後の物さえ。
足が動く。
腕が伸びる。
五感の全てが一回り拡大されて、どんな些細な変化も見付けて記憶出来る。



「いける…これなら……総士!」
『ああ、やれるぞ一騎!』

キラの唇が弧を描く幻影に背を押されて、一騎は…マークザインは大地を蹴った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ