Another World

第一章 存在する異能の力
2ページ/8ページ

それから五分程して息絶えた三匹の兎を持った亜修羅も帰ってきた.

「皮を剥いで,適当に切ってからこっちに渡して」

男子達が兎の皮を剥いでいる間に,女子三人は黒い実を粉末状になるまですり潰していた.
翼覇が切った肉を渡すと紅は粉末状になった黒い実を少量振りかけた.
紅の話では味付けする為の香辛料らしい.
麻白は肉を葉に包んでいた.臭みを消すためらしい.
亜修羅は火の中に枝を突っ込み焦がして遊んでいた.

「焼けるまで少しかかるよ」

その間に,紅と来栖は自分の武器の手入れ,麻白は読書,亜修羅は子犬サイズの狼に変化し翔羅に噛み付き遊び,翼覇は木にもたれながら寝ていた.
六人は通常の人とは違うところがある.
異能者,または術者と呼ばれている六人は,様々な能力を持っている.紅の右腕は鱗で覆われ,三本の指の先には鋭い爪が付いている.
更に,結果術を使える異能者.
麻白は,傷を治癒する力を持つ異能者.
亜修羅は子犬ほどのサイズから人の三倍もの大きさの狼に変化する異能者.
そして,翔羅達は来栖が雷,翼覇が風,翔羅が炎を扱う術者だ.

六人はこの国を敵から守るために戦っている.
三ヶ月前に,この国は戦争に負けた.
周辺の列強諸国はこの国を植民地化する為に新たに兵を送り込んできた.
国の植民地化を止めるため,王の出した答えは敵兵を皆殺しにすること.
結果,亜修羅達のような異能者や術者が戦場に送り込まれた.
現時点では,既に敵兵皆殺し計画は終わっているはずだった.
しかし,あまりの敵の多さに苦戦,各地で次々と仲間が死に,一部の者達は裏切ったという情報も入った.
正直,今の状況は最悪だ.


「焼けたよー」

麻白の声で皆が集まってくる.状況は悪いが,出来るだけのことはやらなければならない.
だが,今の六人には食事と休息が何よりも必要だった.
二日間,ほとんど何も食べずに戦場を走り回っていたのだ.

「んっ・・・んまい!」

亜修羅が人より少し大きめの犬歯(本人は牙といっている)で肉に噛み付いた.
透明な油が滴り,香辛料の匂いが広がる.
三週間ぶりの肉だった.ここ最近,木の実を少量しか食べていなかった.

「うめぇな.兎って初めて喰った」

翼覇が焼けた肉を食べながら言った.

「前にも一度食べたよー.一度,王と食事したことあるでしょ?
 その時に出たミートパイに入ってた肉,あれ兎の肉だったんだよ?」

麻白が言った.

「マジかよ!知らなかった・・・」

翼覇が驚いていた.すでに肉を食べ終えた亜修羅は兎の内臓に取り掛かっていた.
普通ならば苦くて食べられるものではない.
しかし,亜修羅は変化すると狼になる.
そのせいか,内臓(腸以外)を食べる事が出来る.
肉は腐ると匂いが強くなる.その匂いで,敵であるヴェノス軍にでも見つかれば最悪だ.
ヴェノスの嗅覚は,半径二`内に肉の腐った匂いがすれば例えマグマの中だろうと追いかけてくる.
しかし,食べてしまえば少々は大丈夫だ.
腸は地中に埋めるか,中を洗って干しておけばほとんど嗅ぎ付けられることはない.

「美味しいのそれ?」

口の周りを血に染める亜修羅を見て紅が言った.

「うん!心臓の辺りとか柔らかくて美味しい・・・」

血を拭いながら答える.
紅が空を見ながら何か考えている.
日没間近の夕焼け空の色は,戦火を思わせた.

「皆,疲れてると思うから少し眠ろう.けど,見張りは付けるからね?」

紅が皆を見ながら言った.
その後,見張りの順番を決め,来栖・紅・翼覇・亜修羅・翔羅・麻白の順になった.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ