2万打&1周年企画

□PURE LOVE
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昼食の後のキッチンは至って平和だ。
腹も膨れて満足したのか、つまみ食いにやって来る船長を蹴り飛ばす必要もないし、さすがの剣豪も真っ昼間から酒をねだりにきたりはしない。

昼食の後片付けを終えて、椅子に腰かけて一服するのが、至福の時。

ほう、と息を吐き出して目を閉じる。
日常の騒々しさから切り取られたような、静かな空間。1日の中に出来るほんの少しのその時間に、ここにあいつがいてくれたらいいのに、と思う。

長い鼻の、狙撃手。

他の仲間達よりも一緒にいる時間が多い事には前々から気がついていた。
それ故募った恋心か、それとも恋心故に一緒にいたいと思うのか。
どちらが先かなんて分からないし、どっちでもいい事だ。

ただ、気づけばいつも探していた。

その姿を。

ああ、そういえば。
包丁の手入れをするんだったと思い出した。

でも。

もう少しだけ、目を閉じると浮かんでくるその姿を眺めていたい。

「あ〜〜…重症だな、こりゃ」

抱きしめたいとか、思わないと言ったら嘘になる。
でも、一緒にいられればそれでいい。

今は。

おいおいこりゃ何だ、純愛か?

らしくもないと苦笑してタバコを灰皿に押し付けた。







「サンジ、腹へったぁ」

バタン、とキッチンの扉が開いて、ウソップが顔を出した。

その声に研いでいた包丁を落としそうになり、慌てて持ち直してほっと息を吐いた。

「…っぶねェなぁ。何やってんだ」

言いながら後ろ手で扉を閉めて近づいてくるウソップを軽く睨んだ。

お前の事を考えてたんだ、なんて言える訳もないけれど。

「なぁサンジ〜」

「…んだよ…うっせェな」

「何か食いモンくれ」

「さっき昼メシ食っただろーが。もうじきおやつにするから我慢しとけ」

「……けち」

「お前な」

「は〜ら〜へ〜った〜〜!!」

ダイニングテーブルに突っ伏してバタバタと手足を動かすその姿を、シンクから眺めてため息をついた。

そんなガキみたいな仕草だって可愛くて仕方がないとか、そんな風に思っている事をウソップは知らない。知らなくていい。



研ぎ終えた包丁を眺めて、よし、と満足げに頷いてから、今日のおやつに使うりんごをひとつ取り出した。

椅子に座り、口を尖らせてぶつぶつと文句をいいながら足をブラブラさせているウソップは、ここを出ていくつもりはないらしい。

思わず、ふっと笑みが零れる。

「…惚れた弱みってヤツかな…」

赤いその実を剥きながらぼそりと呟いた言葉はもちろんウソップには聞こえない。

相変わらずの膨れっ面で、サンジのけちー、だとかアホー、だとか、好き勝手な事をぼそぼそと呟いている。

これがルフィだったら、確実に蹴り飛ばしてるとこだ。

結局、おれはウソップに甘い。それもとことん。

分かっちゃいるけど、こればっかりはしょうがねェ。

なんたっておれは、恋の病にかかっちまってるからな。
それも重症。

「ほら」

テーブルに片頬を乗せてまだぶつぶつ言っているウソップの目の前に、りんごを乗せた皿をコトリと置いた。

とたんにがばっと起き上がり、目をキラキラと輝かせる。

「食っていいのか!?」

「…ルフィには黙っとけよ」

「やった、さんきゅ!サンジ君、大好き!!」

「………」

ぐらり。

よく口にする、誰にでも簡単に言うであろうその言葉に、心が揺れる。

きっと深い意味なんてない。分かっているのに、それにいちいち動揺する自分が情けない。
目の前で嬉しそうにりんごを頬張るウソップにもイライラする。

軽々しく口にする、その言葉の重さを知っているのかと思う。

知らないなら。気付かないのなら。

おれが教えてやる。




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