Zoro×Usopp

□さわる。
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「…おいウソップ、その辺にしとけ」
「む、なんらゾりょ、おれしゃまのしゃけがのめんにょかぁ〜〜〜???」
「飲みすぎだ」
「にゃにおぅ?おれしゃまは酔っ払ってましぇ〜〜〜ん、よ〜〜〜…」
「…………」
夕食の後、誰からともなく始まった宴会の席。
隣に腰掛けたゾロに、酔っ払って管を巻くおれ。
この状況はどうなのよ、と思わないでもなかったけれど。

最近になってようやく自覚した恋心。
どこをどう間違えたのか、惚れてしまった相手は男で、っていうかゾロで。
しかもどうやら結構洒落にならないくらい好きらしいと気付いた矢先のこのシチュエーション。
どっかりとおれの隣に座り込んだゾロは、いつも通りのハイペースで酒を呷っていた。

間近に感じるゾロの体温にくらくらと眩暈がしそうで、おれは勧められるままにがばがばと大して強くもない酒を飲んだ。

その結果。


「、おいウソっ…」
「にゃはははは〜〜。ぞりょ〜〜〜〜」

ああ、おれさまってば超酔っぱらい。
なんて、心のどこかでそんな風に考えられるだけの余裕がこの時はまだあった。
ふにゃふにゃと笑いながらゾロにちょっかいをだして、その度にいい加減にしろとか言いながらちゃんと相手をしてくれるゾロを、もう本当に大好きだと何度も思った。
けど、余裕があったのはそこまでで。


「ウソップお前いい加減に…」

何度目かも分からない大きなため息を吐いたゾロが、おれの腕を掴んだ、そのとき。

「!!」
「ウソップ?」
「…は…」
「…は?」
「……吐く……」
「はっ!?」

込み上げてくる嘔吐感に、両手で口をおさえた。
ふらふらと覚束ない足取りでなんとか立ち上がり、洗面所へ向かおうとした時、ふわりと体が浮き上がった。

「!?」

驚いて視線を上げた先にあったのはゾロの顔で、余計に驚いてじたばたともがいたおれにゾロは大人しくしてろ、とだけ言って歩き出した。
ゾロに抱えられたまま向かった先の洗面所で、情けないことにおれはゾロから背中をさすってもらいながら、しばらくの間立ち上がることができなかった。





「…落ち着いたか?」
「あ――――…気持ち悪ィ…」
「だからやめとけって言っただろーが」
「うう…すいましぇん…」

吐き出したおかげで大分楽になった体を船の縁に預けて、暗い空を仰ぐ。
火照った頬に夜風が気持ち良い。
ふと隣を見ると、ゾロも同じように空を見上げていた。

「…あの…ゾロ…?」

おそるおそる声をかけると、視線をおれに移したゾロが心配そうに眉を寄せた。

つか、なんなんださっきから。心配してくれてんのは分かるけど、そんな顔されたら困るじゃねェか。

「どうした?…まだ気分悪いか?」
「いや、もー平気…」

ああ、もう、ほんとに困る。
らしくもねェそんな台詞も、本気で心配してます、みたいな顔も。

どきどきしすぎて、勘違いしてしまいそうになる。

「そうか」
「……ん」

騒ぎ疲れた仲間たちは皆船室に引っ込んで、今頃はきっと夢の中だろう。
静まり返った甲板に、おれの心臓の音が響いてしまう気がした。

「ゾロ、あのさ、おれもう平気だから…その、お前も先に寝ていいぞ」
「……お前は?」
「おれはもう少し風にあたって酔いを覚ましてから…」
「ならおれもまだここにいる」
「…いや…あの…」
「なんだ、迷惑か?」
「…や、迷惑じゃ…ねェ、けど…」

ならいいだろ、と腰をおろしてしまったゾロに頭を抱えたい気分になった。
昼間は時間さえあればどこでもぐーすか眠っちまうくせに、なんでこんな時だけ。

酔いは大分覚めたとはいえ、まだ足元はふわふわするし、何を話す訳でもなく、ただ隣にいるだけのゾロの小さな呼吸すらも気になって落ち着かない。
それでも、ゆらゆら揺れる船と夜風の心地よさにうとうとし始めた頃。


「ウソップ」

耳に届いた言葉と同時に、薄い唇が頬に触れた。

一瞬の出来事だった。






「ありゃ幻覚だったのか…?」

甲板で開いたウソップ工場。
何かをしていた方が気が紛れると開いてみたはいいものの、集中なんかできるはずもなくて、なんとなく手にした小さなガラクタをくるくると回しながらため息を吐いた。

あの一瞬の出来事から数日が過ぎたけれど、ゾロがおれに触れてきたのはそれっきりで、この数日間のあまりにも普段どおりなその態度に、あれは幻覚かそれとも都合のいい夢だったのかとさえ思えてきた。


あのあと、慌てて目を開けたおれの隣にゾロの姿はなくなっていた。

「…どんな早業だっつーんだよ」

やっぱり夢だったんじゃねェのか?

でも。

確かに触れられた感触が残る左頬に指をあててみた。

「………っ、だーーー!!!…もう訳分かんねェよ…」

ばたん、と後ろに倒れこみ、持っていたガラクタがころころと転がっていくのをぼんやりと眺めた。

「なんだウソップ。暇なのか?」
「あ?」

頭上から降ってきた声に視線を上げると、咥えタバコのサンジがおれを見下ろしていた。

「暇なんだろ?」

繰り返された問いかけに多少むっとしながらゆっくりと体を起こす。

「暇じゃねェよ」
「もうすぐ昼飯にすっから、マリモの野郎呼んできてくんねェ?」

サンジの口から出たその名前にぎくりとして、わざとらしく眉間にしわを寄せて唇を尖らせた。

「…なんでおれが」
「暇なんだろ」
「だから暇じゃねェって!」
「うるせェな、いいからさっさと行ってこい長ッ鼻!」
「うお!…っと…あっぶねェな!暴力ハンタイ!」

勢いよく飛んできた右足をなんとかかわして、サンジを睨み付けたけど。

「あァ!?」
「…っ、いってきマス…」

ぎろり、とにらみ返されてくるりと踵を返した。

くそ、情けねェ。



 
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