Zoro×Usopp
□すき
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ウソップはよく喋る。
それからよく笑うし、よく泣く。
うらやましいと、ゾロは思う。
自分は思ったことを口にするのは苦手で、だから誤解されたりもするのだけれど、それでも別に構わないと思っていた。今までは。
でも今は。
感情を素直に表に出すウソップをうらやましいと思う。
「ゾロ〜〜〜っ!!」
ほら。
こんな風に、名前を呼びながら笑顔で駆け寄って来て、ゾロの首に両腕を回してしがみつく。嬉しそうに。
「ウソップ」
ゾロには、名前を呼んで抱きしめ返す事しか出来なくて。
こんな時に、ちょっとは気の利いたセリフのひとつでも出てくればいいのに、と思うけれど、そういうのは自分よりあのコックの方が得意だろうし、自分のキャラではないと言う事も分かっている。
でも、腕の中で笑うこの愛しい恋人は、それを望んでいるのではないかと思うのだ。
きっとウソップは、甘い言葉だとか優しいキスだとか、そういったものが好きなのだろうと。
そう思うけれど。
自分には無理だと、ゾロは思う。
「…ゾロ?」
名前を呼ばれてウソップを見ると、なんだか困ったような顔でゾロを見上げていた。
「どうした?」
「それはおれのセリフだって。こ――んな顔してたぜ?」
そう言って、眉間にシワを寄せて口をへの字に曲げてみせた。
「…ひでェ顔だな…」
「だからそりゃお前だっつーの。…悩み事かぁ?相談に乗ってやってもいいぜ」
ただし、有料な。
そう言ってにっと笑う、その唇に噛みついた。
「…ん…ん――っ!」
バシバシと肩を叩かれて、唇を離す。
いつもそうだ。ゾロは言葉より先に、体が動いてしまう。
ああ、だから言えないのかなんて勝手に納得したりしてみる。
「ったく、なんでお前はいつもそう…」
「ウソップ」
名前を呼んで、その細い体を抱きしめて。
よく喋るその唇を塞いでしまえば、諦めたようにため息をついて、ゾロの胸に顔を埋める。
『好き』
たった二文字の短い言葉。
でもゾロは、その言葉の破壊力を知っている。
たった二文字のその言葉が、どんな威力で胸に突き刺さるのかを身を持って経験しているのだ。
その言葉の破壊力は、ウソップのその声のせいで、ゾロの胸に届く頃には何倍にも膨れ上がる。
ウソップへの思いも。
だから、抱きしめる腕に力を込める。
だから、本当はウソップもその言葉を待っている、と思う。
だから。
「ウソップ…」
今日こそは。
「ん?…ゾロ?…どうしたんだ?……真っ赤だぞ、顔が」
「あ〜…その…あ〜…いや、やっぱりいい…」
あえなく挫折してゆでダコのように真っ赤になって顔を逸らすゾロの頬を両手で挟み込んで、無理矢理自分の方を向かせたウソップの丸い瞳が、ふわりと優しく笑った。
「分かってるよ、ゾロ。大丈夫…ちゃんと伝わってる。だから気にすんな」
そのまま口付ける。ウソップから、ゾロに。
「そりゃ、言ってくれればすげェ嬉しいけど。…でもそーゆーのって、伝わっちまうだろ?」
ウソップの手が、ゾロの大きな手に触れる。
「優しく触れるこの手とか」
細い指で、唇をなぞる。
「優しいキスとか」
だから分かるんだと笑うウソップに、敵わないなと苦笑する。
「…エスパーか、お前」
「お。なんだ、今頃気づいたか!おれ様のチカラに」
「ああ…知らなかったな」
「へへん!…ああでも残念な事におれの超能力は、ゾロ、お前の前でしか使えねェんだ」
「…ずいぶん都合のいいチカラだな…なら、おれが今何考えてるか分かるか?」
「…う〜ん…そうだな…抱きしめてキスしてェ、とか」
「まぁ…正解だな」
もう抱きしめてるけど。
キスもしてるけど。
ウソップを抱きしめる両腕にさらに力を込めて、唇を重ねる。
「…あとは…?」
「え〜〜〜?あとは…お…押し倒してェ…とか…?」
「…残念。当たっちゃいるが、それは後でのお楽しみだ」
「お楽しみって…エロオヤジかお前…」
もちろん今すぐでも構わないし、むしろそうしたいのだけれど、今なら言えそうな気がするから。
「お前が好きだ…って言いてェ」
「……っ……」
ウソップの顔がみるみる赤くなる。
ほらな。すげェだろ、この言葉の破壊力。
「おま…っ…それ…反則…」
「なんだよ、嬉しくねェのか?」
「う…嬉しくねェ訳…ねェだろ」
それなら笑えと、ウソップの両頬を指でつまんでひっぱると、その顔がふにゃりと笑った。
「ゾロ…」
「なんだ」
「その…もっかい言って…?」
分かってると言ったその口で、言わなくていいと言った言葉をねだる。
ゾロはふっと笑って、耳元で囁く。
「後でな」
一度口にしてしまえば意外と言えるモンだな、なんて思ったりもするけれど、口にした分だけその威力が消えていってしまいそうで。
だから、一番効き目がありそうな時に言うことにしようと決めた。
でも。
ほとんど毎日のように繰り返されるウソップの言葉が、いつまでもその威力を保ち続けているのは何故だろう。
もしかしたら。
惚れた弱みってヤツかもしれないなと思う。
それなら、自分が放つその言葉も、いつまでも変わらぬ威力のままウソップの胸に響いてくれればいい。
惚れた弱みという、その理由を持って。
END