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□僕が今欲しいモノ
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 僕はなんて愚かなんだろう。

ただ「欲しい」と懇願して易々とくれる相手ではないのに僕は希望するのを止めない。

「はっ……ねえ、骸君……なんでこんな誘い…断らなかったの?……っ」

シワだらけのベッドを背にした僕はたった今自分の中を掻き乱している相手の首を両腕で覆い、耳元で熱い疑問を投げかける。
抱き寄せたために距離が縮まり、より深く繋がって行く。

一体どれだけの時間こうしているのか。締め切った部屋の中に渦巻く生臭い匂いがその刻の長さを現している。

「クフフ……そうですね…しいて言うなら隙を作るため、とでも言いましょうか。っしかし……残念ながらそれは不可能のようだ」

「当たり前でしょ……でも、もっと優しい言葉……っ期待してたな……ぁ、はあっ、ぁ」

僕のそれは本心ではなく、彼のそれは本音だろう。今更分かりきっている。

この世に生ける動物達は皆、食事と睡眠、性行為の三大欲求の何れかをこなしている時は通常より危機的状況を嗅ぎ取る第六感が鈍る物。
しかし先ほどの言い草然り、彼が一度絶頂を迎えた瞬間さえも僕に向けられている殺気を消す要因にはならなかった。ベッドの隣にある棚の上に三叉の剣が置かれてあるのはその準備。

期待などしていない、ただ聞いてみただけなんだ。

淡く青みがかった黒髪が頬に触れている。首筋から伝わる体温。鋭い殺気と共に止められる事のない律動。その全てを感じ取り、僕は今回二度目の精を吐き出した。

彼がグイド・グレコの身体で変装していた時から感じていた、あの突き刺さる程の激しい殺意。
前々から僕の隙を作ろうとして試行錯誤していた事を僕は知っている。

きっと今回の僕の誘いは、またとない大きなチャンスだろう。

「僕に優しさを期待するだけ無駄だと思いますがね」

そう言うと、射精直後の僕の事なんか全然気にも留めない様子で動きをより激しくさせた。なるほど、確かに無駄みたいだ。
果てた後の入り口はいつもより引き締まっていて、さぞ気持ちの良い事だろう。だが反して掻き乱される側にとっては摩擦で焼けて、以後使い物にならなくなるのでは、と言う不安感を煽られる。

「ちょ、骸君……っ痛いって」

「クハハ! よく言いますよ…っは……こんなに緩い入り口なのに……今までどれだけの男に抱かれてきたんですか?」

「さあね…いちいち数えてないしさ…って、ちょっと、ホントに痛いよ…!」

「おやおや……とんだ男娼ですね…きっと君みたいな族は痛いのがお好きなのでしょう?」

「……っ、あぁもう……!」

そろそろ動きを緩めてくれないと、この遅漏の相手はきつい。
出来るだけ長く、深く繋がっていたい。だから僕は手のひらで彼の引き締まった細い腰の滑らかな感触を探るように味わった後、猫のように爪を立て、蚯蚓腫れになる程度に引っ掻いた。

「……っつ! っぁ、はぁ、あ……」

すると動きが最奥で止められる。彼は表情を顰め、小刻みに腰を痙攣させて枕に額を預けた。きっと耐えていたのだろう。

まったく。何が『痛いのがお好きでしょう』だ……人の事言えないくせに。

「結構気持ちいいよね、引っ掻かれるの」

「……黙れ」

ふと気づくと吐き出された白濁を貪欲に飲み込む己の肉壁をリアルに感じた。
その瞬間に襲い来る感情は何物にも勝る幸福。もしも僕の性別が女であったならば、その感情はより素晴らしい物だったろうに。
これは単なる快楽を探求するだけの物ではなく。“子孫を残す”と言う人が皆持つ欲にて、六道骸と言う人間によって次世代の種子を身体に植えつけられているのだ。

震える程の幸福。

「ね、骸君。もし僕が女だったら、こんな事してくれる?」

「愚問ですね……貴方の性別が何であっても、貴方を抱く理由に差障りはありませんよ」

「その理由が変わるかもしれないよ? 子供が出来て、僕を……僕たちを愛してくれるかもしれない」

少し脱力した彼の腰まで伸びた長い髪を一束手に取り、見せ付けるように束の先にキスをする。

「それはありえませんね……何故なら」

髪を弄ぶ僕の手は彼の左手で掴まれ、もう片方の手と一緒に頭上で拘束されてしまった。
すると首をきつく握られた。

「僕が二人とも消してしまうからです。こんな風にね……」

ぎりぎりと力が加わって行く彼の手は僕の眉間にシワを作る。
その行為の意図を了解し、まだ終わられては口寂しい所だったが、よくもまぁ、連続的に盛れるものだと感心する。……この僕が、だ。

首に加わる力はさらに強まる一方。
それなのに僕はほとんど抵抗はしなかった。彼がまだ僕を殺せないと言うのを知っていたからだ。

「大切な契約者予定の方ですからね……殺しはしませんよ。それにしても噂は本当だったようだ……『首を絞めれば程よく締まる』なんて……ね」

「……サイッ…テー」

内心予想通りの返答に擦れた声と見下した微笑を向けてみる。
再び開始された律動はもう止められない。恐らく、この男が飽きるか眠るかしない限りは。


何を植えても発芽しないプランターに種をばら撒くこの愚かな行為は僕の何を埋める事が出来るのだろう。
今までしてきた悪行への贖罪か、はたまた野望と欲望か。それを知る事になるのは一体いつなのか。
人を傷つける事しかして来なかった僕が己に下す罰なのか。そんな馬鹿げた罰を与えてくるのは神か、仏か、それとも閻魔か。
どれが本当なのだろう。
全て正解かもしれない。全て外れかもしれない。いや、そもそも答えであるかどうかも怪しいものだ。

種をばら撒き終わった後の彼にでも答えを強請ろうか。



ただ「欲しい」と懇願して易々とくれる相手ではないのに僕は希望するのを止めない。

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