ごちゃまぜ

□ダイゴ昔話。
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あの人から笑顔を奪う事は簡単だった。








何日か立って
直生徒会長と先輩が立ち話をしている所をみかけた
なにやら喧嘩をしたのか
会長が額に青筋たてて怒鳴っていた。
先輩はただへらへらと笑みをうかべ相手の肩をぽんぽんと叩いている。
それが気に入らないのか軽く先輩の肩を突き飛ばしどこかへ歩き去っていった。
先輩は緩く溜息をはき 俺の存在に気づいたのか視線をむけてきて 困ったように笑った。


「かっこ悪い所みられちゃったな」


そう言って苦笑する。
いつもと少し違う笑い方。


「何かあったんですか」
「いやぁ。あいつと喧嘩なんていつもの事だよ」


言うと頭をかしかしと軽くかく。
そして緩く笑んだ。


「大丈夫。なんともないよ」


やはりいつもと違う笑み。
何かある、と なんとなくそう思った。
確信はもてないけれど。


「…顔色よくないですね」
「、そう?」


はた、とくびを傾げる。
そして側にあった鏡をのぞき込んだ。
そうかなぁとつぶやきながら角度を変えて顔色をうかがう。


「元気ないみたいだ」
「…俺が?」
「はい」


言われて緩く振り向く。
そして笑んだ。


「…なんかね、悪い予感がするんだよね。」
「悪い予感?」
「ん。何の事だかわからないけど。」


言うと緩く髪をつかんだ。
そして指でかるく解かす。
その手は心なしか震えてみえた。


「…先輩」
「だいじょーぶ。俺の勘違いかもしれないしね」


そういって笑った。
無理して笑ったようにしかみえないから
余計に心配になる。
思わず眉をしかめ 先輩の腕をひく


「わ、」


気づいたら腕の中に納めていた
強く 抱きしめてた


「ゆー、り?」
「…、」


はっとして離す
自分は 何を


「…ありがと」


言って先輩は笑んだ
いつもと同じ 優しい笑み
そう、これが見たかった





「あおぎり!」


遠くから先生の声が聞こえた。
名を呼ばれた本人は気づいて振り返り先生に近寄る。
血相を抱えて走ってきたそいつは
あわてる用に先輩に何か伝えている。
そして 先輩の顔色が青く引いていった



先輩は何かに引かれるようにふらっと走って行った。
先生の止める声も聞こえないのか
玄関へ走って行きSPの腕を引いて車をださせ 学校から消えていった。
不信に思って先生へ近寄り、問う


「なにかあったんですか」
「あ、あぁ、梧の弟さんが危篤状態に陥ったらしくて、親御さんから電話がきてな」


聞いて、自分の体の血の気が引くのがわかった。
あぁ、だから先輩は走ったんだ。
血の気と反してやけに落ち着いている自分がよくわからなかった。


「俺も行ってきます。先輩が心配なので」


そう行って病院を聞き出し 車をださせ後を追った。







静まりかえった廊下
そこに先輩は一人で立っていた
弟がいるであろう病室の前で 静かに立っていた。


何かが抜けきったような状態で
自分が近寄ってもなんとも反応しなくて
軽く肩をゆさぶったら やっとゆっくりと振り返った


「…先輩」
「…しんご…が…」
「…弟さんの名前ですか」
「…っ」


ひゅ、と急に息を吸う音が聞こえた。
そして先輩の眉がさがり 眉間にしわが寄り
ぽろ と 涙がこぼれ落ちた


「っふ……っぅ…」


ふるふると震え顔を手で覆うとその場に座り込んでしまう。
体を支えながら病室をのぞくと、母親であろう人がベットにつっぷして泣き叫んでいて
父親であろう人が母親の肩を抱いてうつむいていた
状況を理解した自分は 跪き先輩に肩を抱く


「…先輩」
「っ…まにあわ、なかっ…っ…しんご、しんご…っ」


ぼろぼろと、大粒の涙を流し
弟の名前を何度も呼ぶ。
どうやら先輩が病院についたときにはもう、


すすりなく先輩を見て
かわいそうとか かなしいとか
そんな事を思うより
きれいだと 感じた
不謹慎な奴だと言われてもかまわない
こんな事を言ったら先輩にも嫌われるだろう


でも そう思った


顔をゆがめて
涙でぬらして
声をあげて


一瞬自分の心がぐらついたのがわかった


もっと
みたい





「…先輩」
「っ、な、」


気づいたら手を取って壁に押しつけていた。
痛みに顔をゆがめ わけがわからないという表情で見上げられる
この 顔


「な、んだ、よ、ユーリ…?」


不安そうに涙で濡れた顔で見上げてくる
思わずぎゅっと掴んでいた腕を握りしめる
が、わずかに残っていた理性が それを止め我に返り
先輩を抱きしめた


「すいません…」
「…っ」


これを境にすすり泣く先輩をしばらく抱えていた






暫くして落ち着いたのか、先輩が自分から離れた。
「ありがとう」と小さく言うと弟の元へと向かっていく。
その様子をただ見つめ 唇を軽くかみしめた
自分は なにを しようと していたのか










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