Old Clap

□僕の右腕
1ページ/1ページ



もしも僕の右腕がなくなったら。

僕が生きる意味はなくなるんじゃないか。



テラスに出ると、
5月の日差しが降りかかる。

あっというまに、
一年が時計回りしてきた。
あの夏が再び来るのか、と
思えばくすりとわらえる。


両手を柵について、
それからふと右腕だけ上げる。

太陽は僕の右腕を照らす。


僕は漫画家。
僕は作家。
僕は売れっ子。

自覚もあるし、
それは当たり前だと思う。


でも、その反面、
瞼を伏せたいと思う時もある。




僕は神か?
僕は人間。
僕はただの人の子。

すこし才能が突出しただけの、人の子。






この右腕が体から
すっぽり抜け落ちて、


もしかしたら
四肢すべてが落ちてしまって、
達磨のようになったら、
誰か愛してくれるだろうか?



それとも、誰も愛してくれないだろうか。




そもそも、今だって
愛してもらってるのか、
定かじゃない。


空中に宙ぶらりだ。

へたすりゃサーカスよりたちが悪い。





誰か僕の右腕以外を愛して。










遠くの方に鉄塔が見える。

その先には山が見える。

彼方にはきっと誰かいる。





僕は漫画家。
僕は人間。

僕は売れっ子。
僕はただの人の子。

人だって、神だって、
売れっ子だって、人の子だって。

愛は欲しい。愛して欲しい。


彼方にいるのは
地球を一周して見た僕で無ければいいな。


僕の後ろに、隣に、君がいればいいな。






「露伴先生、何やってるんですか?」






「・・・なんだっていいだろ。」

「何とかと煙は
高い所が好きって奴ですか。」



「ばか。」


僕の右腕 生きる右腕。

描いてる為だけに
存在するなんて考えが
急にあほらしく思える。


僕がこの右腕を持ってる理由なんて、
一つじゃなくたって、いいよな。





「・・・・お前、何しに来たんだよ。」

「露伴先生とお茶。」





例えば、君の手を引くためとか。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ