小さな話
□ノートに綴った、
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教室の最前列窓際の隅っこの席。
意外と何をしてもばれないその席で、暇潰しに、と真っ白のノートを開いたのが
全てのはじまりでした。
「慶次くん、何してるんだい」
ペンを動かしていた手を止めて隣を向くと、半兵衛がこちらを凝視していた。
何か見たこともない生き物をみたような目である。
だが、そうするのも無理はない。
いつも寝てるかサボるかしている男が、授業中に必死でノートに向かっているなんて、俺と付き合いの長い半兵衛なら不審に思ってしまうだろう。
「何、書いてるの。」
半兵衛が俺のノートを覗き込んだ
さっとノートを閉じて机にしまうと、銀色の彼はむっとして俺を睨んできた。
その表情さえ可愛くみえてくる俺はもう末期だろう。
そっぽを向いてしまった彼の肩を指でつっつく。
「また今度見せてあげるよ、」
笑顔で言ったのに、彼はまたそっぽを向いて頬をふくらませた。
「…先生こっち見てるよ。」
半兵衛がこちらに目だけを向けてにやりと笑う。
しまった、と思ったときには、黒板消しと罵声が飛んできていた。
「きりーつ、れーい!」
号令が終わるとわらわらとクラスメイト達はお弁当や財布を持って教室をでていった。
教科書を重ねてトントンと机で端を揃える。
肩に乗っていた夢吉がぴょこぴょこ跳ねて短く鳴いた。
「なんだ夢吉ぃ?」
相棒の小さな指が俺の鞄を差して、やっと俺は気付いた。
「…っ弁当忘れた!!!」
勢い良く立ったせいで後ろの椅子が倒れる。
何人かの生徒がこちらを振り返る。
教室から飛び出して食堂まで走る。焼そばパンはもう残っていないだろう。
ため息をついて、俺は食堂の扉を開いた。
「あ、財布わすれた。」
今日は厄日のようです。