小さな話
□あとどのくらい?
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一話
「あんたってさ、ばかだよな」
顔をあげると、楽しそうに微笑むクラスの人気者の彼。
大きな手が僕の髪を撫でた。
「何の真似だい?慶次くん。僕は君にかまっている暇はないんだ」
視線を数学のノートに戻した。
教室にはシャーペンの音だけが響いている。
何となくきまずくて顔をあげた。
「それに、君にばかって言われる筋合いはないんだけど。」
彼は視線をそらして窓の向こうを見た。
僕の頭の上にあった手が離れていく。
「あと、何のために僕が計算してるか分かってる?」
また静かになる教室。
彼の視線はまだ窓の外の夕焼け。少々わざとらしくため息をはくと僕はまたノートに向かった。
「なぁはんべ。」
「何だい?」
僕は顔をあげずに返事をした。
返事するのも面倒だった。
誰のために自分ではなく慶次くんの宿題をやってあげてると思ってるんだ。
目の前のうざったいポニテ男を見上げると彼が笑った。
「あの夕焼けさ、」
彼の指が窓の外をさした。
僕もつられて窓の外を見る。
「血の色みたいだな。」
「何だい君らしくない。だから僕は君が嫌いなんだよ。」
彼はまだ夕焼けを見つめている。僕はまた慶次くんの宿題にとりかかった。
慶次くんは国語、僕は数学をやるって話だったのに、彼は国語の宿題に一切手をつけようとしない。そもそもこんな八月の終わりまで宿題をやっていない彼が悪いのに
シャーペンの手を止めて、彼の頬を両側からつまんでやった。
それから、僕は君が嫌いだ。といってやった。
すると彼はけらけら笑って、僕の頭を撫でてから、机に身を乗り出して、僕を抱きしめた。
「やっぱりあんたばかだよ。」
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鳴波