Short-Short

□片側恋愛
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 ――ごめんね、ごめんね。

 泣きじゃくってそう繰り返す私を、彼は悲しげな笑顔で「もういいから」と宥めてくれる。

 別れ話のきっかけ。それは、私に別の好きな人が出来た……それだけ。

 貴方を好きでいられなくて、本当にごめんなさい。

 貴方は、ようやく私を好きになってくれたのにね。

 貴方がもっとマシな女と幸せになる事を祈るよ。

 これで何度目かな、この喫茶店に出来立ての恋人連れてきては、こうして泣いている私は。

 いつも決まって私から告白、良い返事がもらえてから、三回目のデート。その時がくると、私は途端にその恋から冷める。

 違う、この人じゃない……、ふとそんなことを思って、もう一刻も早く別れを切り出したくなる。

 例外だったのは、初恋だけ。



【片側恋愛】



「いらっしゃい」

 帰り際、もう一度立ち寄った先程の喫茶店。個人営業のこの店は夜になるとダイニングバーとして働くので、「彼」は丁度改装の準備をしていた。

「桜さん。今日の昼に、また男振ってましたね?」

「……だから、好きで振ってる訳じゃないんですってば」

 彼が咎めるように言い、私はムスッと頬を膨らせテーブルに突っ伏す。

「失礼。でもここまで続くと、魔性の女かと思いますよ」

 その言葉に私は笑った。強ち間違いではないかも知れない。弄んでいる自覚がない分、私は尚更厄介な女だ。

 そう、相手に彼女がいようが奥さんがいようが、一度好きになったらしつこく食らい付いて絶対に離さない。そのくせ振り向かれた途端に冷めてしまうのだからどうしようもない。

 付き合った人数はやたら多いが、まともに付き合えた恋人は学生時代の一人だけだった。

(あーあ)

 恋人を作っては次々切り捨てていくのが趣味なのではない。ただ、幸せな恋がしたいだけ。

 きっと私はずっと相手を追い掛けていたいのだろう。此方が好きになられると駄目なんだ――、そう溜息を吐いた時。

「だから、桜さんは僕を好きになればいいんですよ」

 私の目の前に、コトンとカクテルが置かれた。

 顔を上げれば、彼が柔らかく微笑む。

「僕は絶対に桜さんに惚れない自信があります」

「……こら」

 私は彼の頭を小突いた。

 今夜も、『私を絶対に好きにならない』この彼に愚痴を聞いてもらおう。





end.

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