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□至願、彼方へ
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「総司さん、これいかがですか?」
総司が縁側で空の黒い雲がたれ込めていて地面を刺すような鋭い雨を見つめていると千鶴が背後から声をかけた
「ん?あ…おはぎだ」
コト、という音と共に置かれた御盆の上には色違いの湯呑みと少し形の崩れたおはぎ
「今日はお彼岸ですし、このような天気で空気も湿って寒々しくてお散歩にも出れませんし…慣れないながらも作ってみました」
そう言って少し照れくさそうに微笑む
「そっか言われてみればそうだね、おはぎ食べるの久しぶりだなぁ、嬉しい……でも今食欲無いから後で貰おうかな、」
「…はい……あ、でもちゃんと食べて下さいね!!」
普段の彼女からは想像しにくいほどの声と必死さに少し困惑しながらも「当たり前でしょ」と言って頷く総司
少しの沈黙が鋭い雨の冷たい音を更に響かせる
「そういえば小豆の赤色って災難が降りそそがないようにする、って信じられているんだよね」
「…!…そう、ですね」
少し唇を震わせ不自然なまばたきをさせながら目をそらす千鶴
「…邪気を祓うっていう由来がつく程、信じられてい「あ!そうい、えば私、外に洗濯物を出しっぱなしかも知れません!見てきますね…!」
勢いよく立ち上がり逃げるように去る
「………相変わらず嘘つくの下手だよね千鶴」
そんな総司の声は冷たい雨音に掻き消された
涙で視界が霞む、走ったせいか、何なのか、朦朧として空気がうまく吸い込めなくて呼吸が整わない
「………はぁ…っはあ……っく!」
(不自然に思われたよね…)
鋭い雨が地面を突き刺すみたいに降るように総司の言葉が胸を突き刺す
「…分か、ってる」
こんな迷信のようなものにまで願いを寄せてしまう自分はなんて貪欲で疎ましいのだ
(こんなこと、したって)
治ることなんてない、と分かってる
脳裏に浮かぶ彼の言葉が、笑顔が、記憶が苦しさを増す
(余計に彼を困らせるようなことばかり)
何度も頭では理解している筈なのに抑えきれない
悔しい、悔しい
彼を蝕む病が狂おしく憎い
「───っうぁあああああああああ……っ…!」
両手で顔を覆い、血を吐くかのように泣き叫ぶ
ザァァと降り注ぐ止まることを知れない雨のように
(どうした、ら、)
至願、彼方へ
(ひたすら願うけど、隔てられて見えないの)
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至願…ひたすら願うこと
彼方(かなた)…隔てられて見えない場所・向こうがわ
彼方(あなた)
題名の捉え方は御自由に
…お彼岸でしたね(間に合わなかった)