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□あの温もりを
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※ご都合具合が酷いです
※薫が千鶴を監禁していたり少し狂愛くさいです
『お兄ちゃん』
そう言って幼い君は微笑みながら俺にギュッと抱き締めてくれたね
あの温もりを
いつだって求めていた、のに
今も、昔も、
君は、どうして俺を拒む
密閉された真っ暗な部屋
コツコツと無機質に足音だけが部屋に響く
「…薫?やっと来てくれた!」
「ごめん千鶴、ご飯の用意をしていたら遅くなっちゃってさ」
薫が来てくれたから平気だよ、と言いながら純白のワンピース姿の千鶴が薫に抱きつく
それに応えるかのように抱き返す
「ねえねえ薫、どうして私はここから出たら駄目なの?」
子供が親に聞くように無邪気に、何気なく、千鶴が問う
それに少しだけ眉を歪め
「…駄目だよ…外は君を傷付けるものが沢山潜んでいるから」
折角また千鶴に出逢えたというのに彼女は俺のことを忘れていた、僕は憶えていたのに千鶴には過去の記憶に俺の存在は無かった
また俺を見てくれない、またあの沖田?
俺は、ずっと昔から千鶴だけを追っていたのに、生まれ変わってもまだ君を追っていたのに千鶴は俺を憶えていない?
肉親で血は流れているのに?
それが赦せなくて赦せなくて彼女の自由を奪って閉じ込めた
なのに千鶴は俺を余計に軽蔑し、俺の言葉に耳も傾けなかった
彼女が手に入らない焦りと苛立ちで憤怒して勢いで千鶴に暴力を振るった、…打ち所が悪かったのか彼女は意識を失ってしまった
そして目を覚ました彼女は
『…貴方は…誰ですか?』
頭を打った衝撃で記憶が無くなっていた、
それからの彼女は以前のように俺に対しても無垢な天使のようで綺麗に微笑み俺だけを見る
そう、ずっと望んでいた筈なのに
「私は薫しか知らないから外の世界が分からないよ…」
そう言いながら抱き締める力を強める彼女は、あまりにも空っぽで人形みたいだ
「……ごめんね、千鶴」
君を殺して終いたい
「…?どうして薫が謝るの?薫はこんなにも優しいのに」
何気なく発する千鶴の優しい言葉が俺には耳障りで
ずっと千鶴に見てほしくて、その願いは叶っているのに心の中で「違う」と血叫ぶばかり
俺が愛され方を知らないから?
いや違うだろう
「…お前を亡くして、ごめんね」
弔うような発言をした俺は彼女の口から紡がれる言葉を塞いだ、
手離したのは俺でした
求めて、悲願して憎む程に愛し、手に入れた筈なのに
『お兄ちゃん』
あの沢山の愛情に満ちた表情も温もりも、もう昔のことだったと思い知らされた苦しみしか残っていない
fin
*****
手離したのは温もりだけか、
塞いだのは言葉だけか、