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□春隣な君
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「っく…うぅ…っだからあれだけ、無理はしない、で下、さいと何度も…っ」

千鶴の瞳から大粒の涙がポロポロと溢れ出す
それを気の毒な表情で静かに拭う土方の手

「…泣くな、…って俺が言える義理じゃねぇが……」
「…っ…は、い…」
そう言って自分の手で涙を拭い、また雨が降った後の地面のように明るく微笑む
そんな彼女を見て土方も自然と笑みが零れる

「…けど、あれだな」
「?」

彼には珍しい少し悪戯を思いついた子供みたいな表情に少し心が跳ねた、けれど何故か自分の方が子供みたいで悔しくて何ともない表情をする
「本当に鬼の目にも涙だな」
そんな綺麗な顔立ちで珍しく楽しそうにくすくす笑うから許してしまいそうになる
「…なっ酷いですっ!土方さん!使い方間違ってます!」
「ははは違わねぇよ」
「もうっなら土方さんこそ鬼副長の目にも涙ですー!」
「なかなか言うじゃねぇか…なら嫁いだら、それこそ鬼嫁だな」
彼とは無縁そうな子供の言い争いみたいな会話に少し心が躍る
「もっと酷いです!それなら土方さんだって鬼副長なんですから鬼嫁がお似合いですよー!」

「………」
「………」
(あれ…私ったら何てこと言ってるんだろう…っ!今の言葉って、そういう意味だよね!)
差し水を差したかのように沈黙になり己の勢い余って言った言葉に炎が投げ込まれたかのように熱く目は潤み、耳まで真っ赤になりながら後悔する
「…ふっ…そうだな、鬼副長には鬼嫁がぴったりだよ」

そう言って笑って頭をくしゃくしゃっと撫でて前を歩く彼の背を追って一歩後ろを歩く



(そう遠くない未来、貴方の隣を歩こう)



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春隣…せっかち



 

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