夢の中へのノクターン

□抱きしめて愛でようか
1ページ/2ページ




「千鶴ってホンット偉いよなぁー」




縁側でのんびり空を見ていたら、いきなり隣に居た平助がまるで親馬鹿のような物言いで話だした






「…そう?そこまで偉くないんじゃない?僕、あの子みてたら苛々するし」





「えぇー何で苛々するんだよー。よく仕事するし話しかけたら笑顔で可愛いじゃん」




平助君が僕の発言に不満そうに言う







(やっぱりあの子は誰にでも笑うんだ)





そして僕は平助君の発言に苛々した




「…それが苛々するんだよ。
額に汗いっぱいかいて、どんな仕事も受け入れて疲れたって言って少しぐらい休めば良いのに休まないし、
この間は手伝ってあげるって言ってるのに断るし、
その前は忙しそうだから土方さんなんかに茶なんか出さなくて良いって言ってるのに運びに行くし…
…平助君が言う可愛い笑顔も皆に向けて八方美人って感じでムカつく
無理して笑わなくても良いのに、ほんっとムカつく」




いつだって自分は彼女に一つ距離を置かれている気がしているのに



どうして、








「…………」



平助が目をぱちくりとさせ唖然とした表情で沖田の様子を伺うように見る





「…そんな顔してどうしたの?何か僕、変なこと言った?」






「…いやぁ…総司って千鶴のこと、よく見てるなぁ…。…なぁ総司それって嫉妬?」






平助の言葉が沖田の脳内を巡らせる



(僕が、千鶴ちゃんに嫉妬?)




「総司…?」


珍しく黙る沖田に平助は心配になり声をかける







「………さっき一君と刀磨いだから斬れ味を確かめないといけないなぁ…」



そう言って沖田は内心とは裏腹に笑顔で構える





「わー!!!ごめんって!聞いただけじゃんか!そうムキになるなよ!」



平助は沖田から離れるように立ち上がる




沖田は残念そうに


「…はぁ…まぁ良いけど…ねぇもしも平助君の言ってる"嫉妬"が本当なら何でだと思う?」




思わず言葉が口走った

こんなこと平助に聞くなんて、と少し後悔をしながらも返ってくる答えに淡い期待を寄せた








平助は解っているかのように沖田の質問に答えた



「それは普通、千鶴に対して恋愛感情みたいなのがあるからじゃねーの?」





「…え?」




近藤に捧げる自分が彼女に対して恋愛感情など



ましてや、いつ枯れ果てるか分からぬ、この自分が





「まぁ俺も千鶴は可愛いと思うけどさぁ…」




「………」


照れ照れと語る平助の言葉も聞く耳持たずで










沖田を気にして後をつけていた彼女に労咳がバレてしまった時


きっと聞かせないことだって出来たはずだ



彼女に横に座れと言い、少し離れて座る彼女に
彼女は僕を拒絶してしまうのだろうかと悲しくなった


彼女から拒絶されるのならば自分が、と思い「近づくな」と言えば彼女は「嫌です」と言い
結局自分は許してしまい



あぁ自分は独りで抱える不安を彼女と、
千鶴と、わけあいたかったのか


わかってほしかったのか




泣きそうな彼女に、ありがとうと言ったことも






時々無理に笑っている彼女に苛々するのも



何も用もないのに彼女に近づく自分も




近づく度に彼女に感じる居心地の良さも




全部



全部



この恋愛感情からなのか



 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ